世界初オンデンザメの4K撮影プロジェクトはどう進んだのか?

現場での迅速な対応が「良き偶然」を呼び込む

渡部:熱暴走についてはカメラの海中投入直前にRECボタンを押すことにし、カメラの傾きについては増田さんがその場で重心を低くしてくださったり、重りをつけたりすることで対応しました。また、何度か撮影をする中で、赤ライトでは4Kならではの精細さがどうしても出せないので、白ライトに切り替えるといったこともしました。

前田:増田さんがいっしょに乗船してくれていたからこそできる対応ですね。テストができなかったことで、或いはテストしていたとしても、水族館のような比較的安定した環境でテストをするのと、現場では条件が異なってくるでしょうから、撮影プロジェクトにかぎらず、新サービスのモニター調査などについても示唆が得られるエピソードです。ここまでの状況をプ譜に表すとこのようになりますね。
カメラはすでに入手したものの、実際に撮影を行うフェーズになって、カメラの入手はもはや中間目的ではなく、「カメラを海中に正しい位置・角度で落とし、固定する」ということが、新たな中間目的になっています。

こうした現場の工夫を重ねられた結果、カグラザメは撮影できたんでしょうか?

渡部:カグラザメをねらって、水深600mポイントにカメラをおとしたところ、そこで撮れたのが、オンデンだったんです!

 

前田:まったく狙っていなかったというか、撮れたら超ラッキーなオンデンザメが撮れちゃった(笑)

渡部:はい。これはマニアックな話なんですが、さらに白ライトに切り替え、かつ4Kで撮影していたことで、研究上貴重な映像も撮れていました。

前田:ぜひうかがいたいです(笑)

渡部:番組ではカメラに括り付けたエサをアナゴが食べているシーンがあって、オンデンザメはそれをアナゴごと吸い込んで食べようとするんですが、アナゴはサメの体内に入ると、内臓を食べつくしてしまうそうなんです。それをサメは感知していて、自ら吐き出すというシーンが撮れていたり、ロレンチーニ器官というサメの頭部にある小さな穴も精細に撮影されていて、これも研究者にとって大変貴重な映像となりました。
〔※編集部注:ロレンチーニ器官とは、筋肉が発する微弱な電流を感知する器官で、餌となる生物を探すために利用すると考えられている〕

前田:それは4Kならではですね。

渡部:さらに、これもなかなか撮れないタカアシガニと、オンデンザメがカメラのエサを奪い合うというシーンも撮れたんです。

前田:ゴジラ対キングキドラみたいな(笑)

前田:この映像だけで番組としては成り立っていると思いますが・・・

渡部:望外のターゲットが水深600mポイントで撮れて、その時点で番組としては成立するんですが、番組企画としては最深部までカメラを入れることが目的なので、その後も再深部水深2,000m代のポイントにカメラを落としました。すると、海の怪獣イバラヒゲや伝説の怪魚ソコボウズが撮れたんです!

前田:それはスゴイですね。当初の勝利条件が大きく、それもプラスの方に更新されたということですね。

渡部:はい。撮影した映像を編集するスケジュール上、ここがタイムリミットになりました。

前田:何が撮れるかわからない未知な深海。その環境で撮影するために必要なカメラの製造。番組として成り立たせるための人材の調達や体制の構築。番組成立可能性を上げるための現場におけるエサやカメラの工夫など、プロジェクト上、たいへん貴重なお話です。未知性の高い、すなわち不確実性の高いプロジェクトにおいて、計画段階ですべてを予見することは不可能ですが、今回のプロジェクトにおける正しい打ち手をまとめると、下図のようになると思います。

このDeep Frontier Projectのお話を聞いて書き起こしたプ譜を傍らに置きながら、厳しい時間や条件のもと、増田氏や長谷川氏親子などプロジェクトメンバーのみなさんの奮闘や意思決定のプロセスを感じつつ、番組を拝見したいと思います。

Deep Frontier Project『4Kアドベンチャー 日本列島奇跡の海を行く』の放送日
BS朝日
2019年3月9日(土)13:00~第一夜
2019年3月10日(日)13:00~第二夜
※今回、お話をうかがったプロジェクトは第一夜に該当します。番組URLは放送当時のもので、3月に放送される番組は再放送となります。

渡部露子
テレビ朝日映像株式会社 演出・プロデューサー

大学卒業後、テレビ朝日映像にて番組制作の仕事に従事。ワイドショーや報道番組、バラエティなどの現場でディレクターを務めた後はドキュメンタリー番組を中心に制作。「テレビ朝日開局50周年記念特番 原爆~63年目の真実~」「人生の楽園」等々を担当。ここ数年は、BS朝日にて立ち上げた「遥かなる深海大冒険シリーズ」を含め、ネイチャードキュメンタリー作品を主に手掛けている。

 


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