人任せだった情報発信を、自分たちの言葉や映像で伝えられるように
原田:そうですね、「見るべき人が見ていて、知って」さらに「動いてもらう」ということになります。宣伝会議さんの本誌インタビューで私どもの役員が「頂動」ということをお話したのですが、ただ知らせるだけではなくて、情報を受け取って次のアクションを起こして頂けるようになることがベストだと考えます。
前田:情報を見てもらって行動してもらうというのは、具体的にどういったことがあるでしょうか?
原田:会社がこういうふうに変わっていきます、こんなことを行っていますという情報であれば、「なるほど、では自分としてはこういう動きをしよう。こんなことをすべきだよね」と理解することもあれば、「自分たちがやりたいプロジェクトを、会社のこの動きに即して行えば、もっと進むんじゃないか」と考えて行動することにつながるなどがあるのではないでしょうか。
つまり自分たちの行動を進めるように、情報を取り入れる、ということです。情報を取り入れるためには、情報を発信することも必要ですが、自分たちが動画で情報を発信できるようになったことで、自らが情報を積極的に発信していこうという考えが高まっているように感じますね。今まではコーポレートコミュニケーションがやってくれるというような、人任せだったのが、自らがオーナーとなり、自分たちの思いや考えを言葉や映像で伝えていくという雰囲気・意識が醸成されていきます。
そうなると、情報量が加速的に豊かになっていきますし、伝えたい人にもきちんと届いて、その先の「行動」につながりやすくなると思います。ニュース記事の原稿を書いてもらう時にもこのようなことは起きていましたが、動画を制作できるようになってから、よりその流れが強くなっていると感じます。実際にイントラへのアクセス数、動画のビュー数が上がっています。
北條:ビュー数のように目に見える成果が上がったことで、私たち自身の士気も上がりました。
原田:なんで日本はこんなに高いビュー数を獲得しているのかと他国の担当者から聞かれるくらい、イントラへのアクセス数が非常に高くなりました。ビデオや記事がどのように見られているのかというデータを見ると、業務関連の情報ももちろんそうですが、社内の部活動のような情報もかなり見られています。
前田:「他の部署の人たちが何をやっているかがわかって、存在をより近く感じることができている」というのが当初の勝利条件だったと思います。それが、動画制作アプリを使うことの不安を払しょくし、見るべき人に情報が届くように色々な施策を行っていった結果、先ほど原田さんがおっしゃった、自ら動画を撮って、自分の言葉で情報発信したいと思う人が出てきたというのは、当初から想定していらっしゃったんでしょうか?
原田:そこを目指してはいました。動画制作アプリを導入し、さまざまな部署から少しずつ動画が制作されるようになって、「自分たちでもできる!」と実感できたことが大きいと思います。あとはプライベートでインスタグラムなどを使い、映像を撮ってアップするということが一般的になってきていることから、仕事においても動画を制作するということに抵抗がなくなってきているのも影響しているかもしれません。こうした社会的な変化も私たちのプロジェクトにマッチしていたと思います。そういう意味で、社内での動画制作アプリの導入は、いい時期だったんじゃないかなと。色々なツールがあり、それを活用できる土壌もできていて・・・というふうにタイミングがとても良かったと思います。
前田:天の時、地の利が揃っていたと・・・、
原田:もともと弊社の活動の3つの柱の一つにデジタルを強化するというものがあります。それは社内の、エンプロイーエンゲージメントのことだけではなくて、販売している商品やお客さまへのサービス提供など、全社的にデジタルへの取り組みに力を入れているのですが、それを私たちの業務環境の中にも取り入れていくことです。
北條:ここ数年でオフィスも移転して、インフラも変わりました。デジタルのプラットフォームもそうですし、デジタルサイネージもかつてはなかったものです。オフィスの雰囲気、設計もガラッと変わって、ニューヨークの本社と同じ仕様になりました。「クラブエリア」というコミュニティスペースがあって、そこにデジタルサイネージが設置されていますが、そのスペースを通らないとそれぞれのデスクに行けない設計になっています。
たとえばコーヒーを取りにそこへ行ったついでとか、ランチを食べながらとか、誰かと立ち話をしている時に、サイネージで動画をなにげなく見てしまいます。むしろ、見るように設計されていると言えます。
原田:先ほど申し上げた、タッチポイントを増やすということの一環です。デジタルは場所や時間に関係なく「繋がる」ことができますが、さらにそれがプラスになるには、Face to Faceで話すことも大切です。実は使い勝手だけを考えると、このオフィスはあまりよくないかもしれません(笑)。オフィスへの出口は複数個所ありますが、入口は必ずこのクラブエリアを通らなければいけませんから。
でも、そこでコーヒーを取りにくるなどして立ち止まって動画を見ていると、「これはなになにの動画だよね」と、たまたま一緒になった違う部門同士の人との会話やコミュニケーションが生まれるような、素敵な偶然というか、ちょっとした場や機会になっているのではないでしょうか。
前田:たしかオフィスも何かの賞を受けていらっしゃったと思うんですが・・・
原田:日経ニューオフィス賞ですね。2017年の4月末に東京ガーデンテラス紀尾井町紀尾井タワーに引っ越してきたんですが、移転前のオフィスから現在のオフィスに決めた時に、壁がないことが良かったそうなんですね。部門ごとに物理的な壁を設けたくないと。
北條:そういう意味では、このオフィスという環境も大きな要素ですね。
原田:そうですね。オフィスの環境が変わった、デジタルプラットフォームが整備された。そして次の段階としてコンテンツをリッチにして情報を見てもらえるようにしていくといった段階を踏んできて、それが良いスパイラルになって、ようやくここまで来たという感じです。
北條:正直、ユーザーが自分たちで動画を作るのは普通に考えてハードルが高いので、この制作アプリがなかったらデジタルサイネージに流れていたのはエクセルかパワーポイントのスライドがメインになっていたと思います。3拠点のビルのほぼすべてのフロアに高額なサイネージシステムを導入してそこに流れるコンテンツがそれでいいんですか?そんな情報が流れるサイネージを誰が見たいと思いますか?と、役員を説得してこのアプリを導入しました。
書籍案内
『予定通り進まないプロジェクトの進め方』
ルーティンではない、すなわち「予定通り進まない」すべての仕事は、プロジェクトであると言うことができます。本書では、それを「管理」するのではなく「編集」するスキルを身につけることによって、成功に導く方法を解き明かします。