サザエさんの三河屋さんのような個々人ベースのニーズをくみ取るマーケティングがカギ
大量生産・大量消費時代が到来して以来、日本のマーケティングは、自分の商品を日本国内のすべての家庭に置いてもらいたいという、八方美人型のマーケティングを行ってきました。
しかし、すべての女性にモテようとする男性が、結局誰にもモテないのと同じように、八方美人型のマス・マーケティングでは顧客との間に深い関係性を築くことはできません。とくにお客様が多様化した現在は、個々のお客様と向き合うことが極めて重要になってきています。
私が提唱する「シングル&シンプルマーケティング」とは、デジタルを活用して、「シングル」、すなわち個人ベースのお客様のニーズをくみ取ろうという考え方です。大量消費時代以前には、人と人とのつながりを大切にしたシンプルなマーケティングがありました。その究極のモデルは、サザエさんに登場する御用聞きの三河屋さんでしょう。
三河屋さんはサザエさんの家の勝手口に御用聞きにやってきます。しかし、ただ御用を聞くだけではありません。
「サザエさん、今日はボーナスが出る日じゃないですか。おいしい日本酒が入っていますよ」と売り込みをかけます。すると「そうだったわ。それじゃあ1本いただくわ」と、サザエさんから注文を取りつけます。
三河屋さんの頭の中にはサザエさんの家のデータが入っていて、ボーナスが出る日や給料日には、サザエさんがお父さんやマスオさんの労をねぎらいたいと考える人であることを知っています。だからサザエさんのツボにはまる提案ができるのです。しかもさりげなくそれができる。
この「さりげなさ」こそ、マーケティングがうまくいく肝です。そしてサザエさんから「三河屋さんがボーナスの日だと思い出させてくれたからよかったわ」と喜ばれるわけです。
ZOZO創業者の前澤友作氏は「顧客が物を買う時の理由を理解すると売り方は変わる」と言っていましたが、三河屋さんは普段の御用聞きの経験からサザエさんが日本酒を買う時の理由を把握していたのです。
しかし、三河屋さんのような個々のお客様と向き合うシンプルなマーケティングは、70年代に大量生産・大量消費の時代に入ると変わってきます。
高度経済成長期は物がヒットすると爆発的に売れました。私が以前在籍していた花王では、当時みんなが憧れていたプロボウラーの中山律子さんをCMに起用した「フェザーシャンプー」が飛ぶように売れました。あの時代は、憧れの存在と同じ物を持つことがステータスだったのです。しかし今は、当時のように日本国中の人たちが憧れるような対象はいません。完全に個別化した時代になったのです。
では、こうした時代に、売上はどうやって伸ばせばよいのでしょうか。