【高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック】考え続ければ、企画はかならず面白くなる

【関連記事】
宣伝に携わるすべてのひとたちの「悩み」を解きほぐす 『面白くならない企画はひとつもない 高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック』発売

時代の流れと共に広告手法は変化し、WEB動画やデジタルサイネージなど新しい表現方法が確立されていっています。そんな中、時代の急激な変化に対応できず、何が面白いものなのかわからなくなってしまったクリエイターたちが増加。高崎氏の単著『面白くならない企画はひとつもない 高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック』では、そんな悩みを抱えた若手クリエイター、宣伝担当者たちの企画を丁寧に分析し、面白い企画の作り方、正しい悩み方などを解説しています。ここでは発刊を記念したコラムをお届けします。

企画は道筋を整えて考える

会社にはいってからずいぶん長いあいだ、面白いものをつくりたいという欲だけは強いのに、そもそも「面白いって何?」みたいなことを考えることなくただやみくもに走っていました。面白いと感じたあらゆるものをスクラップして、それをそのまま使って企画する、みたいな今思うとずいぶん恥ずかしいやり方をしていました。それでもいくつかは形になっていくのでそれが稚拙なやり方だということすら気がつくこともできなかった。

10年近くたった頃でしょうか、僕は古川裕也さんに出会います。それが完全に転機でした。ずいぶん一緒に仕事をさせてもらいましたがそこで「企画の回路」、つまりロジックというものを初めて知るんです。

よくもまあ10年もそんな大事なことを考えもせずにやってたなあと思いますが、表現のほとんどの部分が感覚ではなく、論理的に説明がつくということにえらく感動したんです。論理的に説明がつくということは、僕自身がそう面白い人間でなくても、面白いものがつくれる。ということなんです。そして、あらゆる面白いものから回路を換骨奪胎していけば、自分の表現の引き出しは無限に増やしていける。それは僕にとってはインターネットの出現に匹敵する出来事でした。

まあ、最初のうちはそれでも企画は全然通らない。古川さんの企画は、回路を使えば終わりではなくて、回路を使って回路が見えないくらい面白いものをつくる。というものだったのでそこからまた苦しい時間が続くんです。でもこれは「悩むべき場所で悩む」という行為だからまったく無駄にならない。

サッカーでいうと、力一杯蹴って遠くまで飛ばすみたいなことしかやっていなかったんだけど、個人技だけでなく連携やポジショニングという考え方を理解してスペースをつくりだすみたなことをやりだした、みたいなことかもしれません。そうやって基本的な回路を覚えたら、あとは自分の経験をそこに重ねていけばいい。できるだけたくさんのいろんな状況に自分の企画を置いて、その回路を太く強くしていけばいい。

会社の後輩や講座の生徒さんたちから企画の相談をよく受けますが、彼らを見ていると当時の僕を見るような気持ちになります。あの頃の僕よりセンスや器量がいいから逆にたちが悪いと思うことも多いんですが。

面白くならない企画はひとつもない 高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック 書影

「面白くならない企画はひとつもない 高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック」

この本は(前の本もそうなんですけど)、正しく悩む方法を覚えるためのものです。僕が自分に必要なタイミングで古川さんに会えたように、誰かの古川さん的なものにこの本がなるといいなと思っています。

基本的に本の中身はCMの作り方を軸にしています。まあ今の時代CMってどうなの?という部分もかなりありますし、コミュニケーション全体の設計のほうが面白そうに見えますが、実は若いうちに全体の設計に逃げてしまうと、何かが「伝わる」ダイナミックな経験をしないまま大人になってしまう。そうしてるうちに本質的なクリエイティブの筋肉をつくらないまま仕事をしていくことになる。表現の本質とは、心を動かすこと。

こちらの思いを一方的に伝えるのではなく、ひとの心のなかに何かを発生させること。

それができてはじめてひとは本当の意味で動く。情報を正確に伝達するのが表現ではなく、そこに心の動きをつけて情報の深度をあげていくんです。そういうものを学ぶ場所としてCMはとても最適な場なので、みなさんも一度ここで真剣に悩んでみてください。

次ページ 「企画は思考停止で腐り始める」へ続く

次のページ
1 2 3
この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ