【高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック】考え続ければ、企画はかならず面白くなる

オリジナリティとは、誰よりも深く潜るということ

自分を疑うというのは、辛い作業です。でも、それができない人にいいものを作ることはできません。仮に作ることができたとしても、それは単なるラッキーです。一発屋です。自分のことを客観視していなければ、ある一定レベル以上のものを作り続けることはできません。

自分の企画を、自分で意地悪に見る。難しかったらいろんなひとを自分のなかに召喚してそのひとならなんて言うかを想像すればいい。そのひとがやりそうな粗探しをする。

そして、そのひとが認めて黙るだろうという企画を目指してまた考える。自分の書いたものの長所と短所を分析して、短所を修正する。それをひたすら繰り返す。自分らしさみたいな器量の狭いことを考えずにただひたすら直しつづける。

20年以上自分が作り続けてきたものをまとめて振り返ったりすると、結局そうはいっても自分らしいものが並んでいるなあと思います。自分の作風なんて意識しなくても、無意識が勝手にやってくれているみたいです。ディティールの好き嫌いが蓄積されていくのだから、結果的にそうなるのは当然といえば当然です。

強い表現が必ずもっているものがあります。それは「オリジナリティ」です。それは決して作風ではなく、誰よりも深く考えまくった先にあるもののことだと思っています。

他の誰もこれは思いつかないだろう。他の誰もこれをつくることはできないだろう。そういうものが作れたときそこには「オリジナリティ」が生まれる。そう考えると、これは目指すべきものということではなく、結果そうあるべきもの、ということかもしれません。

あるアーティストと話をした時に、その人が「日本ではいい歌が売れるわけではない。売れるのはみんなが知っている歌なんだ」と言っていました。これを聞いたときとても寂しい気持ちになったのですが、振り返ると広告業界も最近ちょっとそうなっているところもあります。みんなと同じ。なんか見たことがある。そういうものに流れがちだったりもします。

誰かがうまくいくと似たパターンのものがすぐあふれる。みんなの逆を行こうと考えることがオリジナリティの基本です。今まであったものや、流れているようなもの、他の人が作れそうなものは作る意味がまるでない。自分しか作れないもの、今しか作れないものこそ、見る価値がある。そういう基本をうっかり忘れてしまいがちなところがあります。

最近その傾向を強く感じるのはきっとメディアから表現が解放されつつあって、「で、どうしたらいいんだ?」という感覚とうっすらした不安がみんなのなかにあるから、安心するポイントを求めているから、なのかもしれません。

でもやっぱり理想は10人いても100人いても1000人いても、自分しか思いつかないもの、です。そうなるには考えをただただ深めていけばいい。時間をかけるという意味ではありません。考察と検証をやたら繰り返して深い深い海を潜っていけば、横にいた10人は消え、100人は消え、1000人は消え、自分だけがそこにいることにきっとなります。世界で自分がいちばん考えた。というところで、いい企画は必ず待っていてくれるのです。

高崎卓馬(たかさき・たくま)
電通 クリエイティブ・ディレクター

広告を軸に、「ひとの心を動かす」ものづくりの領域は多岐にわたる。手がけるキャンペーンは長く愛されるものが多い。主な最近の仕事は、JR 東日本「行くぜ、東北」サントリー「オールフリー」「オランジーナ」三井不動産BE THE CHANGE、樹木希林の三井のリハウス、羽生結弦のANA、窪田正孝の日本郵政グループ、永野芽郁のNOMURA、など。2度のクリエーター・オブ・ザ・イヤーを受賞など国内外の受賞も多数。著書に「表現の技術」、小説「はるかかけら」などがある。

 

【書籍案内】
面白くならない企画はひとつもない 高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック』高崎卓馬 著

 

 
どういうコンテンツが面白いCMなのかまったくわからなくなってしまった後輩、トミタ君がある日、業界で輝きを放つトップクリエイター高崎卓馬の元へ相談にやってくる。そこで彼の悩みを聞いているうちに、高崎は業界に広がりつつある疫病の存在に気付いた。彼らを救うために、同じ悩みをもつ人間たちを集め、高崎卓馬のクリエイティブ・クリニックが開催される。おもしろいコンテンツを生み出すための正しい悩み方、テクニックなど。実際の生徒たちのコンテを元に、高崎が解説、アドバイス、などを処方していく。

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