「ファクト」に基づかないインサイトからアイデアをつくると失敗する
ここで言う「アイデア」とは、前回説明した「バリュープロポジション」=価値の提案、を消費者が体感できるように実際の形にすることを意味します。つまり、アイデアとは提案したい価値を具体化すること、と言い換えることができます。
インサイトに基づいて企画を考えたつもりになっていても、そもそもそのインサイトがファクトに基づいていないと、そこから生み出されるアイデアはヒットにつながりません。
今回は、アイデアに関する「失敗の法則」=「ファクトを含まない“いい加減インサイト”から生まれた“いい加減アイデア”」について、事例を使って説明しましょう。
事例は「お茶づけのり」のプロジェクトです。プロジェクトのテーマは、現在お茶づけのりを食べていない人に食べてもらうこと、でした。
まず、ターゲットのインサイトを探るリサーチが行われました。その結果、お茶づけのりには「孤独でさみしい感じがする」という印象を持たれていて、そのイメージが不満となって食べていないことがわかりました。
(付記しておきますが、現在お茶づけのりを食べている人、お茶づけのりをポジティブに感じる人にとっては、このインサイトに共感できないことがあることを注意してください。著者自身もお茶づけのりにこのような不満は感じていません)。
この不満を起点に発想すると、どんなアイデアが考えられるでしょうか?
アイデアを生み出すための材料は、「お茶づけのりから感じる、孤独でさみしい気持ち」のみ、ということになります。従って、例えば「お茶づけを食べてSNSでつながろうキャンペーン」や「お茶づけのりでお笑いライブの配信番組を見る」といった、その孤独感を解消するアイデアを、あれこれと考えることができます。
こうなると、アイデアを生み出すのはプランナーの「ガッツ」頼みになっていき、言わば「何でもあり」の状態になっていってしまいます。そして、こうしてつくり出されたアイデアでは、不満がほんとうに解消されるかどうかは、「出たとこ勝負」の定かではない状態になります。
こうした状況は、インサイトの背後にあるファクト、つまりは何が孤独やさみしさを生み出しているのかまで掘り下げて考えていないから、生まれてしまいます。
これこそが、「ファクトを含まない“いい加減インサイト”から生まれた“いい加減アイデア”」なのです。このアイデアを実施しても、「お茶づけを食べてもらう」という目的を果たせず、おそらく失敗してしまうでしょう。
しかし、実際のアイデア開発の現場では、このようなことが多く起こっているのです。
洞察したエモーション(感情)だけをインサイトと考えて、「その感情は何から感じられたのか」というドライバー(源泉要素)となる、具体的なファクトを見ていないことに問題があるのです。