ファクトに基づくインサイトでなければ、ヒットするアイデアの道は遠い
「インサイトは、消費者の意識に上っている理屈や建前ではなく、無意識の領域に隠れている心理である」という考え方そのものは、多くの人にとってスムーズに理解できます。しかし、その心理が表面に出てこないものであるためか、「気分」や「気持ち」の面に対してのみ焦点を当ててしまい、それが「何から生まれているのか」にまでこだわらないことが多く見受けられます。
それがわかっていないと、アイデアを「何にこだわって考えたら良いのか」がわかりません。そして、頑張ってアイデアをつくったとしても、消費者の不満や欲求を充たせないことになります。実行に移しても、成果を上げられません。
このような事態に陥らないようにするために、「ファクト」にこだわることが、絶対に必要なのです。
話を先ほどの「お茶づけのり」に戻すと、行われていたインサイトリサーチにおいては、お茶づけのりに対して「孤独でさみしい感じがする」不満を感じさせるドライバーとなっていたファクトが「顆粒のカサッカサッという音」であることがわかっていました。ポイントは、商品の持つ「物性」にあったのです。
こうして見れば、先に挙げたアイデアはいずれも的外れであることがおわかりいただけるでしょう。その「顆粒のカサッカサッ」とは全く異なるポイントにアプローチしてしまい、本来解決すべき問題にはノータッチだからです。物性にこだわり音がしないようにする改善が求められており、例えば「しっとりした生タイプに変更する」といった打ち手が必要になります。
「ファクト」を無視した“いい加減インサイト”から考えるアイデアは、すべて“いい加減アイデア”であると断言できます。求められている課題を正しく解決しないからです。
そして、アイデアを発想する際のヒントがないために「何でもあり」になってしまいます。そうなると逆にアイデアをつくるのも容易ではありません。また、アイデアを採用する側も、確かな評価基準がないことになります。
ですから、インサイトを探索する時点から、単なる「心理」「情緒」だけでなく、その心理を導いた要因は何か?まで読み取っておくことが欠かせないのです。
インサイトは、単なる感情、気持ちや本音だけであると理解していると、先の例のような失敗を引き起こします。
私はいつも、インサイトは、以下の4つの要素で構成される、と説明しています。
1つめは「シーン(場面)」。感情が生まれる場面や状況です。
2つめには「ドライバー(源泉要因)」。感情を生み出す直接の要因です。
3つめが「エモーション(感情)」。気分や気持ち、情緒です。
4つめとして「バックグラウンド(背景要因)」。その感情を感じさせる背景となる理由です。
この4つの要素のうち、エモーション(感情)以外の3要素は、いずれも客観的な事実(ファクト)を伴うものであることが、インサイトの条件です。
その事実があって、生まれた不満や欲求といった感情が、セットになってインサイトを理解する必要があるのです。
バリュープロポジション(=価値提案)を具現化するアイデアは、インサイトのドライバーとなるファクトに基づいて、その課題解決を顧客が確実に体験できるものであること。これが、先の「失敗の法則」の裏返しになる、アイデアの「ヒットの法則」になります。
そうすることで、“いい加減アイデア”で失敗することがなくなります。
そして、アイデアを考える際にもポイントが明確になります。何を解決すればよいのかがクリアになるからです。アイデアを選択する判断の際にも、そのファクトに沿えば誤ることがなくなります。
正しくインサイトを使えば、ヒットにつながり、作業も効率化するというわけです。
このアイデアに関する「ヒット」と「失敗」の法則は、インサイトを活用するにあたって重要なチェックリストとなる「だいたい良いんじゃないですか?時代におけるヒットの法則」と「失敗の法則」に含まれるものです。前回の連載でも紹介していますが、改めて「ヒットの法則」から紹介します。
これに対して、「失敗の法則」は次の5つの法則です。
この連載では、引き続きこの法則について、インサイトを上手に活用するというポイントから、紹介していきます。次回は、「インサイト」に関するヒットと失敗の法則をご紹介します。
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