【高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック】アイデアを手繰り寄せる技術

海外CMは方法論の宝庫

海外CMは、ロジカルなアプローチを学ぶにはうってつけです。映像の迫力やセンスを見るのではなく企画の回路を徹底的に見るのです。日本のCMは感覚的につくられたものがとても多いけれど、海外のものは言語や宗教や人種の違いを意識していくつものコミュニティで理解されて愛されるものを考えざるを得ないため、その時点でとても背骨が磨かれている。そこを学ぶのです。

僕は20代後半に海外CMを徹底的に研究しました。そしてそれを自分で分類してノートをつくりました。自分の言語で整理された回路がそこには並びます。新しい仕事がくると、ひとしきりオリエンや戦略に即した企画を考えたあとで、このノートを開いて今目の前にあるこの仕事を回路でつくるとどうなるか? と考えて、それを企画にしていきました。

たとえばペプシコーラの比較広告のシリーズは、日本ではオンエアしづらいものですが、クスッと笑ってしまうひねりがあります。Got milkのシリーズなら、商品がない、という状態をユーモラスに描いています。

他にも時間軸を有効に使ったものや、ストーリーの裏切りをつくるもの、タグラインですべて着地させるもの、倒置法をうまく使いこなしたもの、みんなが憎める悪役を登場させるもの、主人公が決して幸せにならないシリーズ、商品の性能がすごすぎて逆に不幸になるもの、などとにかく回路の宝庫で、何度も何度も見ていろんな角度から吸収していきました。

ただ、ここにある回路をそのまま使えたことは実はあまりません。やっぱりオリエンや相対的な状況のなかで表現を作っていくので、日本だとそこまで機能しきれない部分もあります。それに回路が見えるCMはまったく感情を動かさないので中途半端に真似をしても効果はありません。僕の場合は、こういう自分の好きなCMたちのあいだに自分の仕事が並んで置かれたときに恥ずかしくないものにする。そんなひとつの基準、だったのかもしれません。

高崎卓馬(たかさき・たくま)
電通 クリエイティブ・ディレクター

広告を軸に、「ひとの心を動かす」ものづくりの領域は多岐にわたる。手がけるキャンペーンは長く愛されるものが多い。主な最近の仕事は、JR東日本「行くぜ、東北」サントリー「オールフリー」「オランジーナ」三井不動産BE THE CHANGE、樹木希林の三井のリハウス、羽生結弦のANA、窪田正孝の日本郵政グループ、永野芽郁のNOMURA、など。2度のクリエーター・オブ・ザ・イヤーを受賞など国内外の受賞も多数。著書に「表現の技術」、小説「はるかかけら」などがある

 

【書籍案内】
面白くならない企画はひとつもない 高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック』高崎卓馬 著

 

 
どういうコンテンツが面白いCMなのかまったくわからなくなってしまった後輩、トミタ君がある日、業界で輝きを放つトップクリエイター高崎卓馬の元へ相談にやってくる。そこで彼の悩みを聞いているうちに、高崎は業界に広がりつつある疫病の存在に気付いた。彼らを救うために、同じ悩みをもつ人間たちを集め、高崎卓馬のクリエイティブ・クリニックが開催される。おもしろいコンテンツを生み出すための正しい悩み方、テクニックなど。実際の生徒たちのコンテを元に、高崎が解説、アドバイス、などを処方していく。

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