「TOKYO」発のブランドとして、世界に発信していく
—ブランド名に「Tokyo」と冠したところに、意志を感じます。
諏訪:「AOKI」の名前は、おかげさまでビジネススーツのブランドとして認知があります。この「AOKI」という資産を生かしながら、次のステップである「世界に通用するブランド」というステージに進むのだという我々の志を『Aoki Tokyo』という名前に込めました。1店舗目として銀座という場所を選んだのも、オーダーメイドの店舗が集中する銀座でしっかりとブランドを確立して、東京発のブランドとして世界に発信したいという思いからです。
—室井さんたち外部スタッフの方々がプロジェクトに参加されたのはいつですか。
室井:プロジェクトが始まったばかりの2017年11月ぐらいだったと思います。通常は事業戦略に基づいたオリエンシートができた段階で、僕たちクリエイターがアサインされますが、今回のプロジェクトでは新規事業開発チームの方々がビジネスモデルをつくっている段階から参加させていただきました。
新しいブランド、新しい店舗と聞くと、ついテクノロジーを駆使したデジタル重視の店舗設計を提案してしまいがちなところがあります。今回のプロジェクトを通じて、それはクリエイターのエゴなのかもしれない、と気づかされました。常に会議の場にメンバーとして参加させていただいたので、ディスカッションを通して、AOKIさんが大事にされていることがわかり、“今、本当に必要とされているテクノロジーが何なのか”を見極めることができました。
諏訪:今回は意識的に初期の段階から、室井さんをはじめ外部のパートナーの方々に中に入ってもらい、会議でもどんどん発言をしてもらいました。この経験は私にとっても新鮮でしたし、このプロジェクトを通じて、社内だけの議論では得られない経験を得た社員が増えました。これは当社にとって大きな財産になったと思います。
室井:会議では自由に発言させていただきましたし、それに対するフィードバックも明解でしたので、どういう風に調整していけばいいか非常にわかりやすかったですね。チーム編成もリアルとデジタルを統合的にクリエイティブできるメンバーが揃っていたので、デジタル施策からリアル店舗への送客、さらに来店後の店舗での体験まで、オンラインとオフラインを統合したシームレスなブランド体験の設計が可能になったと思います。
そういった意味で、『Aoki Tokyo』は僕がこれまでにお手伝いさせていただいた新規ブランドの立ち上げの中でもすべてのコンテクストが密接に絡んだ設計が実現できたと考えています。
あえて「ECなし」でのスタートに込めた、AOKIの意思
—「Aoki Tokyo」では、どのような価値を提供しようと考えていますか。
諏訪:まず、最高品質の製品を提供します。次に、素晴らしい環境でのお買い物体験の提供。そして、それをサポートする接客サービス。この3つの柱のもとで、お客さまにブランドに対する安心感を得ていただいたうえで、次のステージとしてECがあると考えています。
室井:今はどんな業界でも、とりあえずデジタルを導入しようという風潮がありますが、「Aoki Tokyo」は店舗でのリアルな体験を最も重視しています。ですからデジタルは、お客さまを店舗に送客するツールとして、情報収集や来店予約をしやすい設計になりました。
諏訪:昨今ではオーダースーツの買い場にまでデジタルテクノロジーは浸透しています。そういう環境においても我々が誇れるものとは、創業から60年間培ってきた、お客さまに寄り添う親切丁寧な接客サービスです。接客は一朝一夕に究めることはできません。お客さま一人ひとりの個性やニーズに適応した接客サービスこそ、我々の強みです。その点に磨きをかけたいと、あえて初期ではECは除外しました。
室井:確かに高い技術を持ったスタッフの接客は大きな武器になると思います。いくら店舗の見た目がよくとも、接客がよくないと当然、印象は下がりますから。店舗の空間デザインでは、どうすれば今までにない独自のオーダースーツ屋になるのか、いろんなイメージをみなさんと共有しながらまとめていきました。