【前回】
「【高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック】アイデアを手繰り寄せる技術」
CMは“出オチ”の時代か
回路をつくることに夢中になった僕は、20代の終わりにACのクジラ、「黒い絵」と言われているCMをつくりました。
来る日も来る日もひたすら画用紙を黒く塗りつぶす子どもに対して、親や教師や医師たちの困惑する様子が流れる。そして、最後に何十枚もの黒い画用紙を組み合わせると巨大なクジラが表れ、「こどもから、想像力を奪わないでください。」という一文が流れるというものです。
これはミスリードという長尺のときに有効な回路を使っています。海外でも広く理解されたいと思っていたので、言葉に頼らない映像に挑戦しました。こういう自分に新しい制約を与えていくと、またひとつオリジナリティある表現に近づきます。このCMを作って、何度もいろんなひとたちに見てもらいながらその表情を見ているうちに「予定調和を壊す」という表現はとてもいいものになることに気がつきました。
「まさかそんなことが起きるとは!」という驚きは広告にとても重要です。洗剤でシャツを洗うと白くなるとか、美味しくて驚くとか、広告は自分の長所をできるだけ大げさに言おうとします。しかしそれは基本的に自画自賛です。自画自賛は表現としては相当レベルの低いものです。もっと豊かで大きなことができるのに、自分で買ったメディアで自分を褒める、みたいなことをやっていると、広告というもの自体がきっと世の中から飽きられて、価値の低いものになってしまうのではないでしょうか。広告で自画自賛するということほどの予定調和はないと思います。
とは言いつつ、メディアの質の変化に僕たちは影響を受けます。テレビを若者が観ていない。観ていてもスマホをさわりながら見るくらい。集中して観てもらってない。つまり情報の粘着度が下がってきている。そうなると、どうしてもこちらの言いたい事を明確に、誤解なく伝えることにカロリーを使わざるを得ない。予定調和を壊す、なんて言ってる場合じゃない、という側面もあります。最近のCMで目立つ出オチ、連呼、がとても多いのはそのせいでもある気がします。
そんなことを広告警察的に考えているうちに僕のなかでひとつの仮説が生まれます。
情報をできるだけ減らして、目をとめるようなビジュアルで、映像の引力を最大化させてみると効くのではないか? 30年近く前にたくさんあった動くポスターのような映像が効くのではないか? と。そういう思いから作ったのがこの三井不動産の「BE THE CHANGE『55ハドソンヤード』篇」です。
このCMは、三井不動産がニューヨークのハドソンヤードの再開発を手がけるグローバルな企業であることを伝えることが狙いですが、そういう説明をしても誰も関心を持ってくれません。クライアントから、松本幸四郎さんをキャスティングするという要望があったので、ニューヨークという場所でジャズに合わせて歌舞伎をするという「動くポスター」のような企画にしました。最近流れ始めたばかりなので、その仮説がどう正しくて、どう間違っているかを自分の肌で検証して、次につくるものをどうするか考えていきたいと思っています。