その2:<顧客を知り、商品開発やマーケティング戦略につなげる>店舗
前回の<ブランドの世界観を伝え、体験してもらう>店舗に続き、パナソニックノースアメリカの橘匠実氏がニューヨークにおける事例を紹介します。
2つ目の理由は顧客を知るためです。成長しているブランドは、普段からとにかく顧客との接点を多く持ち、そこから得た情報を、商品開発やマーケティングに最大限利用しています。
例えば眼鏡ブランドのWarby Parkerの例。日本では未上陸ですが、Warby Parkerはアメリカで特にシェアを伸ばしている眼鏡のブランドです。彼らは商品を買ってくれた顧客に対して、SNS上で積極的にコミュニケーションをとります。ユニークなのは、社員が顧客ごとに一つひとつのコミュニケーションをカスタマイズしている点です。
例えば同社の社員が眼鏡を購入した顧客のツイートを見つけた場合、その顧客のためだけに動画を作り、YouTubeで公開します。動画には「おめでとう!私の名前は××です。商品で困ったことや不満があれば、すぐに聞いてね」といったメッセージが入っており、ユーザーは何かあった時に彼女に対してコンタクトを取ることができます。
問題が起こった後の受け身的なサポートではなく、買った瞬間から社員が顧客と直接つながるアクティブサポートにより企業と顧客は従来以上の強い信頼関係を作り出しています。このようにしてインターネット上で貪欲といえるほどに顧客に関わり、声を聞こうとするD2Cブランドにとって、リアル店舗というのは顧客情報にあふれる「宝の山」と言えるのではないでしょうか。
その点をうまく活用しているのがRetail Nextという企業です。Retail Nextは店舗における顧客や店員の動作を読み取って、オペレーションの改善や販売促進を支援する企業で、天井に取り付けられる複眼カメラを活用し、店舗内のさまざまな情報を取得しています。例えば顧客の性別、年齢、手に取って試した棚の場所、店舗滞在時間、レジの行列に何分待ったかさえ、測ることができます。
このソリューションを使って先述のCasperなどは顧客特性を掴もうとしているわけですが、同様に、もう1つユニークな取り組みをしているのが「b8ta(ベータ)」というストアです。
b8taは全米に16店舗展開しており、主にスタートアップが手がけるIoTガジェットを販売しています。店頭にはIoTスケートボード、IoTキッチン調理器具、IoTぬいぐるみなど、ユニークな商品が並んでいるわけですが、それ以上に興味深いのがそのビジネスモデルです。
同社は、Retail Nextのソリューションを活用して顧客の情報を取得するだけでなく、商品に触れた顧客の滞在時間や、商品への関心度合いなどのデータをメーカーにフィードバックし、その費用を得るビジネスモデルを適用しています。
メーカーは商品に関心を持った顧客のデータという貴重な情報を取得でき、次なる商品開発やマーケティングに活用することが可能になります。
従来、メーカーと小売店は、在庫の受け渡しを責任分界点としてきましたが、ここではその関係を超えて、顧客データの提供を通した、新たなビジネスモデルを作りあげていると言えるでしょう。
→その3:<サービスのロイヤルティを高める>店舗に続きます。
橘 匠実
パナソニックノースアメリカ
マーケティング デジタル&コミュニケーションズ トレーニー
2010年、パナソニック入社。資材の調達部門を経て、2014年より同社ブランドコミュニケーション本部にて、国内外の展示会企画業務に従事。2017年より、海外トレーニーとしてパナソニックノースアメリカへ出向。北米でのブランディング・マーケティング活動に従事する傍ら、現地で見つけた最新のビジネストレンドやニュースについて、情報発信を行う。
Twitter : @takuminy02
note : https://note.mu/takumi0131