“一番輝く瞬間”を引き出す
私は1994年に毎日放送(MBS)に入社したので、もう四半世紀もアナウンサーの仕事をしていることになります。入社した翌年には阪神・淡路大震災が発生し、被災地の取材なども体験しました。現在は、夕方の情報番組『ミント!』(月~金曜日、午後3時49分~7時)のニュースキャスターなどを務めています。
アナウンサーは単なる”喋り手”だと思われがちですが、我々の仕事は用意した原稿をそのまま読むだけではありません。情報を咀嚼して、分かりやすく伝えることが求められています。
また、アナウンサーは”聞き手”でもあります。関西のアナウンサーは特に、東京のアナウンサーに比べて役割が多岐にわたり、インタビュアーとしてお仕事をさせてもらうことも多いので、そう感じるのかもしれません。話を聞いて情報をもらいつつ、相手の”一番輝く瞬間”を引き出すことも我々の大きな役割なのです。
ここでいう情報とは、文字としてのコメントだけではなく、表情や、私との距離感などを含めた空気感のことでもあります。そういった意味でも、アナウンサーは編集者やライターと同じ「伝え手」です。
準備万全で挑んで惨敗
インタビューで思い出深いエピソードがあります。1999年から放送が始まった情報バラエティ番組『ちちんぷいぷい』(月~金曜日、午後1時55分~5時50分)の中で、解剖学者の養老孟司さんに取材をする機会がありました。
ベストセラー『バカの壁』でおなじみの養老さんが新刊を出すということで、京都に来られるタイミングでインタビューをすることになったのです。午前と午後に30分ずつ、計1時間をいただけるということで、午前中は当時メインキャスターを務めていた角淳一さんが、午後は私がインタビューを行って、どちらが面白いかを比べようといった企画をすることになりました。
当時まだ若手だった私は、取材前にできることはすべてやっておこうと、養老さんの著書をしっかり読みました。趣味で書かれている昆虫の本なども読み、できる限りの準備をして取材に臨んだのです。
準備の甲斐あって、「この本でこういったことをおっしゃっていましたが~」「最近◯◯に凝っていらっしゃるんですよね」など、予習した知識を駆使して質問し、取材はうまくいきました。
一方の角さんは、なんと養老さんの著書を一冊も読まずに取材へ。そして、用意していった質問はただひとつ、「養老さんは、”素敵なオス”ってなんだと思います?」のみでした。準備も予備知識もすっ飛ばして、生物の根源に迫りたかったのだと思いますが、養老さんに「そんなの知らないよ」と一蹴されて、スベってしまいました。
30分間のインタビューの撮れ高としては、私が勝ったと思います。けれど実は、放送では角さんのインタビューの方がウケました。親近感のあるキャラクターで、関西のお茶の間に親しまれていた角さんだったからこそ、「角淳一は、あの養老孟司さんに爪楊枝みたいに小さな刀で立ち向かって負けた」というコンテンツとして成立したのだと思います。私はこの時の角さんのインタビューを見て、当たって砕ける自分の姿まで想像できていた角さんの”凄み”に気づかされました。