光文社『Mart』
「なぜ雑誌を買うのか」へ原点回帰
—2019年4月号からワンテーマを深掘りする方針へと舵を切りました。なぜでしょうか。
昨年6月に編集長に就任して、改めて「一冊の雑誌にお金を払うのはどんなシーンだろう」という原点に立ち返りました。今の時代、多くの人がウェブサイトやスマホアプリに触れています。その点、雑誌はスピードと新しさ、情報量で負けてしまう。そこで改めて読者が雑誌に何を求めるのかを紐解いたところ「興味のあるものを深く知りたい」と思っていることが見えてきました。
確かにこれまでも、30ページ近い特集を組んだのに「物足りない」「もっと見たかった」という声が寄せられることが度々ありました。情報の紹介にとどまり、一つひとつのアイテムを掘り下げ切れていなかったんです。「強い興味のあるものは、深掘りしないと物足りないと言われるんだ」ということに気づき、思い切って毎月ワンテーマに振り切ることを決めました。
読者の「年齢切り」をやめた
—ここ数年の『Mart』はどのような課題を抱えていたのでしょうか。
読者像を捉え直すことが大きなテーマとなっていました。数年前は、「100均」など安くて実用的なブランドの特集を連発し、確かにそれが受けていました。ところが「受けるからやる」を繰り返しているうちに、次第にマンネリ化していったんです。読者からは「爪に火を点すような生活はしたくない」「そこまでするのはわびしい」といった声もいただくようになりました。
そこで再度ヒアリングしたところ「高いものばかり買うわけではないけれど、どこか1点だけはいいものを使いたい」というインサイトが見えてきた。例えばルームフレグランスが顕著で、ドラッグストアに行けば数百円で買えますが、あえて7000円~8000円の“ちょっといいもの”を買っている読者が多いと分かりました。アクタスも見るけれど、ニトリも好きで、どちらもうまく取り入れる、そんな実態が分かってきたんです。
そうやって地道に読者と向き合った結果、「“ちょっといいもの”が分かっている私たちが、手の届くアイテムで暮らしを豊かにしたい」と考えているという読者像が見えてきました。
一方で、雑誌の長寿化とともに読者層の上昇という問題にも直面していました。創刊当初は幼稚園児がいるママがメインターゲットでしたが、最近は平均年齢が上がっていました。ターゲットの年齢を上げるべきか、下げるべきか模索する時期が続きました。
最終的に出した結論は、「読者を年齢でセグメントしすぎない」ということ。今は女性の在り方も多様で、働いている人もいれば専業主婦の人もいて、子どものいる人もいれば独身の人もいます。平均年齢というのはあくまでボリュームゾーンで、実際は20歳台も40歳台の方もいます。でも暮らしに興味があるのは共通で、年齢は関係ありません。「家まわりに興味を持っている人」を広くターゲットに据え、年齢によらず様々なライフスタイルの人が読める仕立てにしようと決めました。