ピンクリボンデザイン大賞15周年 中村禎さんインタビュー

「乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の大切さを伝える活動」として2003年に始まった「ピンクリボンフェスティバル」。なかでも、「ピンクリボンデザイン大賞」はポスターデザインやコピーを通じて、乳がんに関する知識や検診の大切さを発信する主要イベントです。記念すべき第15回目を迎えた今回、第1回から審査に携わるコピーライター 中村禎審査員長にインタビューを敢行。応募作品に込められたクリエイティブの変遷を振り返るとともに、応募希望者に向けたメッセージをお届けします。

—多彩な取り組みが実施される「ピンクリボンフェスティバル」における、「ピンクリボンデザイン大賞」の開催意義について教えてください。

中村禎 審査員長

世の中の人たちに乳がん検診の大切さを知ってもらうことはもちろんですが、デザインやコピーを考えるクリエイターの乳がんへの“意識”を啓発することも目的にしています。作品をつくるために乳がんについて調べることで、クリエイターは世間に知られていない事柄を発見し、発信することができます。

第1回東京都コピー部門優秀賞作品「産婦人科に行くのだと、思ってました。」がその代表例です。『乳がんを早期に発見しましょう』というメッセージのもと、乳がんの知識を深めたクリエイターがデザインやコピーで多くの人に乳がんの理解を促す“きっかけ”を与えることこそ、15年間変わらぬ本賞の大きな役割だと考えています。

—第1回(2005年度)から審査員を務め、第5回(2009年度)に審査委員長に就任した中村さんですが、この15年の間に応募作品のクリエイティブにどのような変化が見られましたか。

初開催から2~3年は、女性の乳房をモチーフにしたポスターデザインが多かったですね。その後はクリエイターが乳がんに関する知識を深めたこともあり、ピンクリボンと関連した気付きのあるポスターデザインやコピーが増えています。

正直なところ、『乳がん』という広い枠組みで作品を募ると、数年で切り口は出尽くすと思っていました。しかし、毎年新鮮味のある作品が続々と生まれるので、驚きが続いています。その最たる例が、男性に向けた作品。第8回ポスター部門最優秀賞作品は、乳がん検診を日常的なものとして描き、男性管理職の乳がんに対する理解促進に貢献したと思います。

今までにない切り口で発信しようとするクリエイターの姿勢が、女性にとどまらず、社会全体で乳がんに対する理解を促す新たな潮流を生み出したのではないでしょうか。

第4回ポスター部門最優秀賞作品

第8回ポスター部門最優秀賞作品

—第9回(2013年度)に過去の優秀作品を用いた課題コピー部門、第11回(2015年度)には課題テーマ部門が新設されました。その目的と、毎年どのようなことを意識して課題を設定していますか。

課題コピー部門は、過去の優秀作コピーをあらかじめを用意することで、より明確に意図が伝わる作品づくりにつながると考えました。“メッセージ”となるコピーが弱いと、中身のぼやけたポスターに仕上がってしまいます。私たち審査委員はクリエイティブディレクターの立場から、デザイナーが新しい発想を生み出すヒントとなる優秀なコピーを選定しています。課題テーマ部門では『夫婦』『親子』といった誰しもが“じぶんごと”として捉えられるテーマを意識しています。

「ピンクリボンデザイン大賞」の活動を15年にわたり継続してきたことにより、幅広い層に乳がんへの意識は着実に浸透しています。この流れを加速させるためには、“つくる人”も“見る人”も乳がんを身近な問題だと一層感じてもらうことが大事だと思います。

第12回ポスター部門最優秀賞作品

第13回ポスター部門最優秀賞作品

—第15回目を迎えた今年はどのような作品が生まれることを期待していますか。

課題コピー部門の第14回コピー部門入賞作品「検診に行ったと、自慢してください。」には、『乳がん検診は恥ずかしいことじゃない』という想いがこもっています。お気に入りのグルメや絶景と同じように、乳がん検診に行ったことを誇れること、日常的なこととしてSNSで発信してほしい。『自慢する』という小さなアクションが誰かの命を救うという素晴らしいストーリーを、応募者の皆さんには魅力的に描いてほしいです。

一方の課題テーマ部門にある「はじめる」というキーワードは、乳がん検診の“習慣化をはじめてほしい”という思いで設定しました。乳がん検診受診率は上昇傾向にありますが、一度の検診で満足している人が多いのも事実。乳がん対策のネクストステージに女性を導く意味でも、継続検診の必要性が伝わるクリエイティブを期待しています。

第14回ポスター部門最優秀賞作品

—乳がんに対する知識や問題意識が社会全体に広まるなかで、今後「ピンクリボンデザイン大賞」に求められることは何でしょうか。

現在までに応募されたコピー作品を有効活用したいと考えています。例えば、第4回東京都コピー部門入選「今年受けないあなたは、来年も受けないあなたです。」や、第13回コピー部門優秀賞作品「一番治りやすいのは、今だ。」は、いま見てもハッとさせられる秀逸なコピーです。

コピーは人の心にグサッと刺さる強さがあるので、毎月19日を『1=ピン』『9=ク』「ピンクの日(『1=ピン』『9=ク』)」に設定し、選りすぐりの作品を毎月SNS上に投稿するのも面白いですね。「ピンクリボンフェスティバル」期間中だけではなく、一年を通じて乳がん検診の啓発活動が可能なツールになると思います。

また、日常的にピンクリボンをアピールする取り組みとして、「ノベルティ部門」を復活させるのもいいですね。私は未だに過去作品のトートバッグを愛用しているのですが、まちなかで「ピンクリボンですね」と声をかけられその訴求効果を実感しています。買い物に便利な折りたたみ式ショッピングバッグなど、多くの人が愛用したいと思えるノベルティを検討できればと思います。

—最後に、応募希望者に向けたメッセージをお願いします。

人の命を救う使命感をもって作品づくりに臨んでほしいです。私自身も15年にわたり「ピンクリボンデザイン大賞」に携わるなかで、世の中から乳がんの悩みが減ってほしいと人一倍思うようになりました。許されるなら、私自身もコピーを応募したいぐらい(笑)。若手クリエイターだけでなく社会経験豊富な方々にも応募いただき、さまざまな視点の作品が集う記念すべき第15回目となれば何よりです。

乳がんについて調べるだけでなく、周囲の女性のリアルな声をヒントにして、審査員全員が『その手があったか!』と唸る前人未踏の発見のあるクリエイティブにぜひ挑戦してください。

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