いいプロジェクトとは、次に生まれるものの種が見つかるプロジェクト【安斎勇樹×前田考歩 前編】

「動画による社内エンゲージメント向上プロジェクトは、どう進んだのか?(後編)」はこちら

東京大学大学院 情報学環 特任助教で、株式会社ミミクリデザイン代表取締役の安斎勇樹さんは、著書『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』(慶応大学出版会)でも知られる、ワークショップデザインの研究者です。安斎さんは、ワークショップでよいアイデアが出るようにするには、問いのデザインが重要であると考えています。『予定通り進まないプロジェクトの進め方』の著者 前田考歩さんが、プロジェクトを活性化させる問いについて安斎さんに話を聞きました。
今回はその前半です。

活発な議論は、問いで固定観念をゆさぶるところから始まる

前田:安斎先生はワークショップをマネージしていくプロセスにおいて、「問い」の役割が非常に重要だと考えておられます。プロジェクトでもスタート時に設定する問いや、膠着状態にある時の問いが非常に重要ではないかと考えているのですが、どういう問いかけをすれば、頭が柔らかくなって議論が起こってくるのでしょうか。

安斎:プロジェクトのどの段階でワークショップを使うかによって、問いのレベル感や重要性は変わってきます。まだ最初のころで、何をめざすプロジェクトなのか合意形成ができていないがために議論が走りだせないような時は、例えば商品開発であれば、そもそもなぜこの商品を作ろうとしていたのかというレベルからワークショップをすることが大切です。

そこが握れていないと、いくらアイデアがたくさん出てきても、それが良いアイデアかどうか判断できませんからね。その時に問いがすごく大事になるんです。課題を抱えてワークショップに参加されている方は、課題の渦中にいるため、どうしても視野が狭くなっていますから。

カーナビを開発する時に、「どういうカーナビがいいか」というお題で始めてしまうと、AIの時代だし、自動運転だし、何をナビしよう…という話になってしまいます。

そもそもカーナビは必要なのか。なぜカーナビを作っていたのか。そういう上流の問いから始めると、生活者の移動を支援するためにカーナビを作っていたことを思いだします。だったら、AIになろうと自動運転だろうと、人が移動することはなくならないわけで、私たちはどのような移動の支援をしたいか、どのような移動をデザインするのかというように、少し視野が広がります。そこで初めて、じゃあどういうものを作るのか、アイデア出しの会議を始めます。

問いによって、固定観念にちょっと揺さぶりをかけて視野を広げてもらい、あらためて何をめざすのかを考えていく。そういう問いかけですね。

前田:遡って「問い」をつくる、という感じですね。

安斎:「問い」とは、問題や課題があるときに、どういうまなざしでその問題を捉えるかを問うことだと思っています。すでにどこに向かって走るのか決まっていて、アイデアはどうしようという時も、いきなりアイデアを出すのではなくて、自分の経験をシェアするとか、自分の内部にスポットライトがあたるような問いかけを最初に入れておきます。同時に、もともと持っている自分の考え方だけにならないように、ちょっと揺さぶる問いを次に投げます。

問いが、ずっと未来のアイデアにスポットライトを当て続けたら、だんだん自分事ではなくなってしまいますからね。だからと言って、「あなたはどうですか?」と聞き続けても、自分の話しかできなくなる。ですから、その間のコンビネーションを段階的に組み立てながら、自分事になっているけれど新規のアイデアが出てくるように導いていきます。スポットライトのあて方をコントロールすることが、ワークショップデザインであり、問いのデザインなんです。

前田:それがまさにファシリテーターの役割であるということですね。これがプロジェクトなら、プロジェクトマネージャー(以下プロマネ)がその役割を担わないといけないわけですが、プロマネも与えられたプロジェクトで、かつ業界経験が長いと却って視野狭窄になりがちです。

しかし、上流の問いをしようとか、問いのデザインをしなければという意識を持つだけでも、プロジェクトが袋小路に入る危険性を避けることができそうです。これは身に着けておきたい視座ですね。


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