次につながる「いいモヤモヤ」を見つける
前田:ワークショップを進めていくうえで、問いかけ方は変わっていくものなのでしょうか。
安斎:前半はわりと発散的にやっていきますが、アウトプットに向かって、より現実的かつ意思決定を意識した合意形成のモードに入っていきます。
問いかけ方も重要ですけど、どちらかというとワークショップで出てきた複数の意見を収束させていくプロセス設計のところがより重要になりますね。問いかけて問いかけて、一生懸命足並みをそろえるというよりは、出てきた意見をみんなで投票してフィードバックするような感じです。投票も、賛否両方入れてもらって、賛否が割れたものを題材にさらに議論を深めていき、モヤモヤしているものをあぶりだします。
そういうことを繰り返しながら、なんとなくみんながいいと思ったものに合意を導くように気を遣っています。
前田:いつまでも問うているわけではないんですね。
「閉じた問い」とか「開いた問い」という表現があると思うんですけど、前半は開いた問いがよくて、だんだん閉じた問いになっていくという感覚ですか。
安斎:そうですね。でも、意外と後半になって立ち現れた問いが、より探究的かつ哲学的な問いになることもあります。
オフィス家具を作っていて、アウトプットが出そうになっている時に、「そもそもなぜ人は集まって働くのだろう」という問いが出てくる。仮説を出して、さらに問いながらやっていくうちに、「人はなぜ生きるのか」みたいな、探究的な問いがプロダクトに宿る。そういうことが起こるわけです。人間の営みに対する根源的な問いが商品やイノベーションプロジェクトの裏側にちゃんとあるということは、むしろいいことだと思っています。
ワークショップでは、1回すっきりして終わると、そこで学びは止まってしまいます。人間は多少フラストレーション溜まっている方が学習しますし、想像力も働くんです。
例えば「いいカーナビ」ではなくて、新しいアクセサリーをアウトプットできました。けれど、人間が移動することに対する新しい疑問からモヤモヤが深まったので、次のプロジェクトで考えてみたい。そういう方が、健全なものの生まれ方のような気がします。ですから、次につながるいいモヤモヤが見つかって終わるのが理想的なんです。
前田:それは非常に重要な気がします。そういう終わり方をしないと、マイナーチェンジを繰り返すことになりますからね。
安斎:いいプロジェクトとは、次に生まれるものの種が生まれるプロジェクトではないかと思っています。ですから、種をうまくあぶり出して、プロジェクトメンバーに可視化されたり、認識が上がったりする状態を作ることを常に意識しています。
前田:探求の種が生まれるというのは、実にいい! 製品がコモディティ化して、速さや価格の安さで戦っている時に、新しい哲学的な問いが生まれることで、「そもそも」というポジションチェンジのチャンスが生まれるわけですね。
とくに新規事業やピポットする可能性のある未知性のより高いプロジェクトでは、そういった種が非常に大事だと思います。
(後編に続く)
安斎 勇樹氏
株式会社ミミクリデザイン
代表取締役
前田 考歩氏
株式会社フレイ・スリー
プロデューサー
書籍案内
『予定通り進まないプロジェクトの進め方』
ルーティンではない、すなわち「予定通り進まない」すべての仕事は、プロジェクトであると言うことができます。本書では、それを「管理」するのではなく「編集」するスキルを身につけることによって、成功に導く方法を解き明かします。
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