市場全体で共感性の高いインサイトを見つけることで、選好性は高まる
選好性を「市場全体で見て高める」ことが重要ということはおわかりいただけたと思います。
では、市場全体における選好性を高めるには、どうすればよいのでしょうか?
それは、市場全体で共感性が高いキーインサイトを見つけるということです。
前々回の連載で採り上げた「お茶づけのり」で、これを考えてみましょう。
まず、失敗の法則に当たる「一部のセグメントされた顧客のみの選好性」を高めようとすることは、次のように考えることができます。
市場を、例えば「簡便志向」「プレミアム志向」「健康志向」「低価格志向」といった具合に、ターゲットのニーズによってセグメントすることからスタートします。
そして、それぞれセグメントしたターゲットグループに対して、そのニーズに基づくキーインサイトを設定し、それぞれに商品を投入し、マーケティング/プロモーション戦略をプランニングして実践していく、というやり方です。
このような、いわゆる「ニーズセグメンテーション」に基づくアプローチが、多くの企業で採用されています。しかし、これでは各セグメント内での微少な差別化競争に陥るのが関の山で、市場全体の選好性を高めることは難しいでしょう。
市場全体で見ての選好性が重要なのですから、考える対象=ターゲットも市場全体で見なければならないのです。先のような平面の円グラフの割り付けではなく、ターゲットをひとつの球体のようにイメージします。そして、その球体を「インサイトに共感する・しない」の二つに切り分けます。
そして、市場というその同じ球体を、異なるインサイトによって別々の角度から「共感する・しない」で切り分けてみるのです。インサイトによって、その球はさまざまな形に切り分けることができ、その切り方は無数に考えられます。
その中で、「共感する」の比率が最も高くなるキーインサイトを選択するのです。それが、市場全体での選好性を最も高めることになります。
こうすることで、先に挙げたような、「●●志向」でターゲットを細分化していく既存の市場環境とは全く違う軸で戦うことが可能になります。以前の回で述べた「既存路線を否定する、新路線」を見つけることができるのです。
また、「F1層」「地方在住の幼い子どものいるファミリー」といった、属性にとらわれる戦略ではなく、インサイトをベースにした戦略を組むことができます。それも「市場全体の選好性」にこだわることのメリットになります。
このような、市場全体において高い選好性を持つインサイトは、表面的な消費者調査等ではなかなか見つかりません。現状の商品や競合を見ることからスタートせず、「人間を見に行く」という大局的な視点を持って、無意識の領域を掘り下げてインサイト探索を行う必要があります。
そして、キーインサイトの共感度を確認するには、市場を代表するサンプリング構成に基づくリサーチを行うことが必要です。インサイトの探索はn=1で行うことができますが、検証は定量的に行うのです。
いかがでしたでしょうか。このメンタルアベイラビリティに関する法則を含めた、「ヒットの法則」と「失敗の法則」を、改めてご紹介しておきましょう。
次回はこの「ヒットと失敗の法則」のシリーズの最後の回として、「フィジカルアベイラビリティ」に関する法則を紹介します。
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