「思いつき」を「企画」に進化させる、愛しくも苦しい10のステップ

【前回コラム】「企画づくりを「習慣」にしてしまおう ヒントは毎日の「服選び」」はこちら

6月16日13時まで企画募集中の「第14回販促コンペ」。課題に取り組む中でつまづいたり煮詰まったりすることもあるのではないでしょうか?そんな皆さんの“お悩み”に、企画のプロが答えます。

※本稿は「第11回販促コンペ」の開催に際し、掲載した記事です。

情報を制する者は戦いを制す 情報収集は日常的に

版権 : orson/123RF 写真素材

はじめまして。ボランチ代表兼クリエイティブディレクターの松重宏和と申します。今回のリレーコラムのお題は「いい企画のつくりかた」ということで、自分なりの「企画」を考える際のポイントなどをいくつかお伝えできればと思います。

まず、大枠についてです。僕の場合は下記のような流れで、「アイデア」を「思いつきレベル」から「企画書レベル」へ整えていくことが多いです。

① クライアント(歴史/商材/社長/思い/USPなど)について調査
② 過去事例(同クライアント/同商材/競合など)調査
③ ターゲット調査
④ 調査内容+思いつきを並べていく
⑤ 気になる(勝ち目のありそうな)アイデアを掘り下げる
⑥ 企画書フォーマットに当てはめる
⑦ ⑤〜⑥をくり返す
⑧ リファレンス①②とのすり合わせ
⑨ 企画書を精緻にする
⑩ 完成

以下、ポイントについて説明します。

まずは、クライアントや今回のテーマとなる商材などについて調べます。どんな課題の場合でも、基本的に「アイデアの素」となるものはここにしかないので、しっかり時間をかけます。また、ここで調べたことは、企画書をまとめる上ですり合わせる際(上記⑧のフェーズ)にも役立ちます。

次の過去事例の調査も非常に重要です。販促コンペの場合はもちろんですが、ふだんの仕事の場合でも、「他人と同じ企画」は基本的にその時点でアウトです。また、販促コンペに限って言えば、既存の企画と同じものを出してきている時点で、審査員側としては「この人は何も調べていないんだろうなぁ」と思ってしまいます。これは販促コンペに限らずアイデアコンペに参加しようと思っている人には、常に意識してもらいたいところです。

さらに、この過去事例については、企画開発の時点で調べるものというより、ふだんから習慣的にアンテナを張っておくべきものだと思います。数をこなすことで「いい企画」とはどのようなものなのか、共通点が見えてくれば言語化できるようになります。すると、感覚ではなく論理的によい企画を判別できる。

そして、アイデア開発の時点で「このアイデアは似たような企画があったな」と、すぐにわかるので、ムダな時間を削減できます。また、企画開発の時は、特定のジャンルに絞って調査することで、短時間で、より精度高く、「企画かぶり」を防げると思います。

ターゲット調査は、ネットで簡単に手に入るような、平均的なデータはあまり使えないと思っています。むしろ、そのターゲットの特徴を聞いて想起される、「最も身近にいる、その特徴を体現している知人」をイメージし、その人のより個人的な特徴をピックアップしたり、ふだんどういうインサイトで物事を見ているか、どういう企画だったら「動きそう」かを考えます。

どこの誰かもわからない、それっぽい人をイメージするよりも、より身近で、はっきりとしたキャラクターが見える人をイメージするほうが、企画に圧倒的なリアリティが生まれます。

ここまで調べた時点で、それらの要素をざっとマッピングします。クライアントや商材を中心に、調べたものを並べながら、思いついた要素(メディア、コンテンツ、インサイトなど)を結んでいく作業です。その時点で何となく思いついたアイデアは紙の端の方にざっくりでいいので、簡単にまとめておきます。

これをくり返していくと、「これならいけそう」「おもしろくなりそう」というアイデアが見えてくると思います。次はそのアイデアを掘り下げていきます。ちなみに、僕の場合は、マインドマップを使うことが多いですが、人によってマンダラのような枠組みを用いたり、連想ゲームだったり、それぞれ合った方法があると思います。まずは自分に合ったアイデア発想法を見つけることをオススメします。

アイデアを掘り下げる際のポイントは、いきなり企画書の体裁にしないことです。まずは紙、パソコンやスマートフォンのメモアプリ、何でもいいので、自分がアイデアを出しやすい場所やツールを使い、思いついたものをあふれ出させます。それを出し切った時点で、企画書フォーマットに当てはめてみましょう。それまではおもしろいいと思っていたものが、企画書フォーマットにすると途端につまらなくなる場合があります。そういう場合は、残念ですが、そのアイデアは捨てましょう。

これらをくり返して、ある程度数がたまってきたら、リファレンスとすり合わせます。どれだけおもしろい企画ができても、クライアントの方向性とズレている場合は、基本的に採用されることはありません。また、アイデアの段階ではオリジナルなものだったはずが、企画書にまとめているうちに、どこかで見た企画に引っ張られ、似た内容の企画になってしまった、といったことを避けるためにも、ここでのチェックは重要となります。

これらの作業で企画の数が足りなくなってしまった場合は、捨てた企画を見直します。要素を足し引きしたり、別の文脈に置いてみることで、違う企画に生まれ返らせることができないかを考えます。それでもむずかしい場合は、マッピングに戻り、まだ見えていなかった、新しい要素を探す旅に出ます。

完了した作業をやり直して、さらに新しいものを見つけ出すのは精神的な苦痛が大きく、この作業はなかなかむずかしいのですが、ここで新しいものが見つけられた場合は、非常に強いアイデアであることが多いように思います。

さて、企画書フォーマットに落とし込み、リファレンスとのすり合わせを行い、企画が規定数を超えたら、レイアウトやフォントなどの体裁を整えて、企画書を精緻にしていきます。販促コンペでは、資料自体の出来は評価には関係しませんが、審査員はだいたい200〜300の企画書を審査することになりますので、見る側のことも考えて、最低限の体裁は整えることをオススメします。これもふだんの仕事から、ある程度習慣化したほうがいいと思います。最後に誤字脱字などのチェックを行い、問題なければ完成です。

「企画」を考えることは、この「時短」や「効率化」や「生産性」が求められる世の中で、本当に幸せで、ぜいたくな時間なのではないかと思います。もちろん会社によってそれぞれルールはあると思いますが、基本的にはどれだけ時間がかかろうが、効率が悪かろうが、締め切りギリギリになろうが、課題解決できる企画さえ出せれば何でもOKなんですから。

この愛しくも、苦しい、貴重で尊い時間を、どうか精一杯楽しんでください。
今年もたくさんのワクワクする企画に会えることを楽しみにしています!

松重 宏和氏
ボランチ
代表取締役社長/CEO
クリエイティブディレクター

1983年北海道生まれ。マイナビ、シフトブレイン、ワントゥーテンを経て、2019年株式会社ボランチを設立。企業や行政、教育機関などのブランディング、プロモーション、採用活動におけるコンセプト立案やコミュニケーション設計など、クリエイティブディレクション全般を担当。ADFEST GOLDをはじめ、Cannes Lions、Spikes Asiaなど受賞多数。New York Festivals 2017/2019 Grand Jury、AD STARS 2016/2017/2019 Preliminary Judges

 

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