ブランドDNAの理解があるからこそ、“非連続”の発想に挑戦できる — FWD富士生命、日本KFC、マンダム、ワコールの市場開拓の道

マーケティングに関する正しい理解を広めるのもマーケターの役割

FWD富士生命保険 執行役員 兼 CMO 立川麻理氏。

FWD富士生命保険は、マーケティング部を2017年に発足させたがCMOは存在しなかった。複数の外資系企業でマーケターとしてキャリアを積んできた立川氏が入社と同時に、CMOに就任。現在、本格的にマーケティング活動に着手し始めた状況と、組織づくりに取り組む真っ最中だ。生命保険は人的販売が重視されてきた業態だけに、立川氏は現在、社内においてマーケティングの必要性を理解してもらうための活動にも力を入れているという。またインターナルコミュニケーションの一環で、部門を超えた社員の交流機会を拡大することも始めている。

社内におけるマーケティングやブランディングに対する理解の浸透の重要性に賛同の声を上げたのは、日本ケンタッキー・フライド・チキンの小山氏だ。

「営業戦略本部長に就任する前のマーケティング部長時代に感じたのは、当社の社員は店舗経験者が多くを占めることもあり、マーケティングといえばセリング、プロモーションをつくるという認識が一般的であるということだった。そこで社内、部内のマーケティングに対する理解浸透に取り組んだ。具体的にはマーケティングの役割をお客さまに美味しかった、ありがとうと言って喜んで帰ってもらうことと定義し、広めていった」(小山氏)。

ブランドのDNAを継承しながら、新しい挑戦を実現する

今回、参加のマンダムとワコールは、それぞれ大阪と京都に本社を置く、ともに関西を代表する企業だ。関西には発想力が溢れる創業者により立ち上げられた、魅力的なDNAを持つ企業が数多く存在する。マンダム、ワコールはその代表と言える企業だ。

ワコール 執行役員 総合企画室 広報・宣伝部 部長 猪熊敏博氏。

今年でマンダムが92年、ワコールが73年と共に、長い歴史を持つ老舗企業。ブランドのDNAを途切れずに継承しながら、創業当時と大きく変わった市場環境の中で、新たな市場・顧客開拓のチャレンジも求められる。猪熊氏、西村氏の話には多くの共通点が見えてきた。

「いま改めて、創業者の精神を学び直すことが大切だと考えている。創業者の塚本幸一は日本の女性の服装が和装から洋装へと転換する中で、洋装に合う下着の新しい文化をつくった人。それは市場創造のビジネスであり、その過程では新しい文化をつくることを大切にしてきた系譜がある」(猪熊氏)。

情緒的な価値、さらには文化をつくることを大切にしてきたワコールだが、4歳から69歳までの日本の女性のべ4万人以上のデータを集積している「ワコール人間科学研究所」など、研究・技術開発の投資にも長年、力を入れている。技術力の高さに裏打ちされた商品力が強みとして生きてきたが、下着の市場もコモディティ化が進んでいる。

「技術力に裏打ちされた商品だからこその価格設定になっているが、低価格商品が市場に広がる中、その価値をどのように理解してもらうかが課題に。技術力が強みではあるが、その価値を現在の市場環境の中で、お客さまに伝えていくのは非常に難しいと感じている」(猪熊氏)。

こうした課題の解決のために昨今、ワコールでは店舗における顧客の購入履歴や体型のデータなども統合し、一人ひとりのお客さまをより深く理解し、あらたに「より深く、広く、長くお客さまとつながることができる関係を構築していく流れが会社の中にある」

ワコールでは店舗における顧客の購入履歴や体型のデータなども統合し、一人ひとりのお客さまをより深く理解し、あらたに「より深く、広く、長くお客さまとつながることができる関係を構築していく流れが会社の中にある」(猪熊氏)。

こうした猪熊氏の発言には、西村氏も深く共感をしていた。
「ここまで技術革新が進むと、消費者に明確に差を理解してもらえる機能的な価値を打ち出すことが難しくなっている。機能性だけではなく、いかにして情緒的な価値を感じてもらえるかがますます重要に。特に化粧品は付加価値ビジネスの代表とも言える産業なので、新たな価値づくりが課題になっている」(西村氏)。

こうした新たな価値を創造していくための仕掛けづくりを西村氏は、マーケティングの役割だと考えているという。そして、そこでは猪熊氏が語る「文化をつくる」ような活動が必要とされる。

マンダム 常務執行役員 マーケティング統括 西村健氏。

「2002年のサッカーFIFAワールドカップ日韓大会で、当時の日本代表選手の多くが髪を染めていたことをきっかけに、男性がおしゃれとして色々な髪色を楽しむ文化が広まると考えて手軽に自宅で染められるホームカラー剤を発売したり、男性の清潔志向に対する意識の高まりを捉えた外出先でも洗顔の替わりとして使用できる洗顔ペーパーなど、『時代の半歩先を行く』価値創造が求められている」(西村氏)。

強い創業者の志を引き継ぎながらも、創業時から大きく変わる市場環境の中で、新たな挑戦も同時に求められる。2社が抱える課題には多くの共通点があった。

次ページ 「BtoBtoCの業態だからこそのブランド価値伝達の難しさ」へ続く


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