「インサイトが教える、ヒットと失敗の5つの法則」〜その5「フィジカルアベイラビリティ」編

配荷率を上げるだけではなく、消費者にとっての「買いやすさ」を追求する

まず、「フィジカルアベイラビリティ」について簡単に説明しておきましょう。

フィジカルアベイラビリティは、前回説明したメンタルアベイラビリティと同じく、マーケティング研究者であるバイロン・シャープの著書『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』に登場するキーワードです。

フィジカルアベイラビリティとは、「購買機会の高さ」という意味です。もっとくだけた言葉で言えば「顧客の買いやすさ」を高めるということです。従って、これを高めるには、オーソドックスに考えると「配荷率」を高めることが考えられます。より多くの店で買えるほうが、買いやすいのは当然のことです。

しかし、この「購買機会を高める/買いやすさを高める」という視点を持って既成概念に囚われずに考えれば、マーケティングのアプローチ手法はさまざまに広げることができます。その視点から読み解けるヒットも生まれています。

例を挙げましょう。ネスレ日本が展開している「ネスカフェアンバサダー」がこの法則に該当します。

「ネスカフェアンバサダー」は、ユニークなマーケティングアイデアが組み合わされたサービスですが、顧客接点という目で見ると、「買いやすさ」が浮かび上がってきます。

職場でコーヒーを飲みたい時、わざわざ外に買いに行くのは面倒。その時に、わざわざ店や自動販売機まで買いに行かなくても、すぐに美味しいコーヒーを飲めるようになれば、消費者にとって究極に近いレベルまで買いやすさが高められている、ということになります。

サービスを提供するネスレ日本としては、「ネスカフェ」というブランドのコーヒーを、他の缶コーヒーやコンビニのカウンターコーヒー、外食チェーンのコーヒーよりも買いやすくする。それを、このサービスによってつくり出しているのです。

そして、そのような状況にするために「アンバサダー」という新たな仲介者、言い換えると流通拠点を設けて、新たなビジネスモデルを開発したといえます。

流通が単純な店舗を経由するルートに限定されていた時代は終わり、通販はもちろんのこと、このような新たなステークホルダーを経由させたりシステムを導入したりすることを自由に発想できる時代になりました。単に配荷率を高めるというだけではなく、新しい突破口をつくりやすいチャンスだと言えます。

ただ、単に新たなシステムを設ければ、このようなビジネスモデルが成立するわけではありません。ヒットの5つの法則の中でも、特に「メンタルアベイラビリティ」の条件を充たさなければならないのです。

この例であれば、「ネスカフェ」というブランドの持っている認知率の高さと、選好性の高さという強み。それも、特定のターゲット層に限定されず、市場全体において認知率と選好性の高さを持っているということが重要です。そうして、ブランドとして選ばれる選択肢に含まれているものを、そのようにフィジカルアベイラビリティを高めることで、ヒットが実を結ぶことになるのです。

そのためには、前回の連載でも取り上げたように、細かなセグメントにこだわるのではなく、選好性を市場全体で高めることが有効です。そのためには、市場全体において共感性の高いインサイトを探り出し、そのような価値を提供していくことが欠かせません。

次ページ 「法則の裏には、インサイトにこだわる考え方がある」へ続く

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大松 孝弘(株式会社デコム 代表取締役)
大松 孝弘(株式会社デコム 代表取締役)

大手広告会社を経て、2002年デコムを創業。2006年に日本初のインサイトリサーチに関する書籍「図解やさしくわかるイ ンサイトマーケティング」を上梓する。株式会社デコムは、設立以来、一貫してインサイトリサーチによるアイデア開発を提供。近著に『「欲しい」の本質~人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方~』など。

大松 孝弘(株式会社デコム 代表取締役)

大手広告会社を経て、2002年デコムを創業。2006年に日本初のインサイトリサーチに関する書籍「図解やさしくわかるイ ンサイトマーケティング」を上梓する。株式会社デコムは、設立以来、一貫してインサイトリサーチによるアイデア開発を提供。近著に『「欲しい」の本質~人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方~』など。

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