日本は遅れているのか? アドベリフィケーションのグローバルスタンダードから見る日本独自の“進化”とは?

アドフラウド対策は、企業の社会的責任に関わる問題

英国に本拠を置く電通イージス・ジャパングループの傘下にある、アイプロスペクト・ジャパンの上村氏は、英国の状況に言及。「英国では、広告主にとってアドベリフィケーション対策のためのコスト投下が当たり前の状況になっている。さらに広告主とエージェンシー、パブリッシャーとアドベリフィケーションを担う企業が互いに協力しながら、消費者目線に立って広告をより良いものにしようという風潮がある」と話した。

例えば、アドフラウドの対策を怠れば、反社会的勢力に広告費が流れ、資金源になりうる可能性もある。広告の効果・効率の議論だけではなく、企業の社会的責任という観点からも対応が必須という気運が生まれているのだ。そのため、海外の広告業界では「社会性」という言葉もよく使われ、popInの髙橋氏はその点についても日本と欧米のギャップを感じていると話した。

アイプロスペクト・ジャパン
Chief Business Officer 上村 祐輔 氏。

デジタル広告に関わるプレーヤーがチームになって取り組むべき課題

それでは、なぜ日本の取り組みは遅れているのだろうか。その原因についてアイプロスペクト・ジャパンの上村氏は当初はパブリッシャー側がアドベリフィケーション対応に必要なタグづけに抵抗意識を持つケースもあり、その説得に苦労した話に触れ、その状況を「ガラパゴス化」という言葉で表現した。

一方で、グローバルで厳しいガイドラインを設けているという日本マイクロソフトの松田氏は「米国本社が定めるグローバルのガイドラインのもとで広告運用するにあたり、日本には対応するパブリッシャーがないという問題もあった。アイプロスペクト・ジャパンさんと一緒になって、日本国内でその取り組みを進めて現在に至っている」と話し、広告主とエージェンシー、パブリッシャーが一丸となった取り組みが必要だとの考えを示した。

これを受けて上村氏は「日本マイクロソフトさんが求める水準に合わせた対応を実現する中で、自分たちの知見も高めることができた」と話し、広告主の強い意志が業界を変えていくはずという見解を示した。

日本マイクロソフト
デジタル & ブランドマーケティング部 部長 松田 恵利子 氏。

安心して広告主が選定できるプラットフォームとは?

2018年11月にネイティブアドネットワーク「popIn Discovery」にてIASの他、Momentum、ORACLEの3社のアドベリフィケーション計測・対策ソリューションを導入したpopInは、安心・安全の広告配信環境は、選ばれるパブリッシャーとなる上で、重要な競争軸になると考えているという。

さらに髙橋氏は「欧米では広告主が自社のブランドを守るための手段として、自らが予算を使用しアドベリフィケーションサービスを利用されている。それに対して、日本では“誰のコストで対策すべき論”がいつまで経っても終わらない状態が続いているという認識を持っている。そのような状態を打破するべく、我々は自らのプラットフォームに広告主さんが求めるアドベリフィケーションツールを配備することにした。年間、数千万円のコスト投資の決断だったが、この一歩がこの業界の前進につながると期待している」と話した。

また「アドベリフィケーション対策は誰が推進すべきなのか」という議論について、IASの山口氏は「何のために広告をするのか、という問題とも直結している」と話し、日本ではブランドセーフティに関しては株主総会の議題や消費者からのクレームにつながるために意識されるが、アドフラウドやビューアビリィについてはKPIをCPC、CPAに設定しているため、見落とされているのではないかと問題提起した。

これに対して、日本マイクロソフトの松田氏からは「アドベリフィケーション対策をすると、広告のROIが低下すると思われる人もいるかもしれない。しかし実際にはアドベリフィケーションに投資することで、不正インプレッションやクリックを除外することができるので、広告効果の改善につながっている」と話した。

ユーザーにとっての魅力的な広告体験を考える

4者の議論からは「デジタル広告の目的は、単に見られること、クリックされることだけではない。その先にある売上やブランドとのロイヤリティ醸成などを目指しているのであれば、アドベリフィケーション対策は避けて通ることはできないのではないか」という共通見解が見えてきた。

上村氏は「誤った場所、人に広告が届いてしまうことで顧客を逃したり、場合によっては企業の信頼を損なう恐れすらある。私たちエージェンシーだけでなく広告に関わる人間が強い意思を持って取り組むことが大事」と話した。

髙橋氏も「問題が起こると、犯人探しになることもあるが、広告に携わる者がチームとして取り組むべき問題。今日、登壇した4者も普段からチームとして取り組む中でより良い広告のあり方を模索し、提供することを目指している」と説明。

さらに「広告の受け手であるユーザーの視点に立って、心地よく、魅力的な広告体験をつくっていくことが大切」と続け、広告が邪魔者にされるような環境になってしまえば、広告に携わる人たちの仕事に対する誇りも失われかねない。各プレイヤーが意識をもって取り組みを推進していく必要性を訴えた。



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