「広告のフロンティア拡張は今」中村勇吾さん×三菱自動車工業「雲海出現NAVI」チーム座談会 - 2018ACC賞ブランデッド・コミュニケーション部門 Aカテ(デジタル・エクスペリエンス)シルバー受賞作品

神経が拡張する・知覚ができる・見たくなる・行きたくなる

中村:インターネットの最初のほうの嬉しさに、例えばウェブカムがある。テキサスのスーパーマーケットの駐車場とか見て、何の意味もないんだけど「おー」みたいな。いつでもここを見られるんだぜというような、自分の知覚神経が拡張していく感じと言うんですかね。

これには、そういうものの発展形で、なおかつ実際に行きたくなるものと感じたんです。サーファーも海の状況をスマホでウェブカム見ながら出かけていく。それの進化版というか。広告という点でもそうですけど、サービスとしておもしろいな。

山中雄介さん(AID-DCC/プロデューサー、プランナー)

山中:今回はゼンリンさんにすべての地形データをいただいています。

“見たくなる”を表現するうえですごく注意したポイントで、実際CGでつくっているんですけど、それを見てモチベーションが下がってしまうと行きたくなくなっちゃうかなと思って。ウェブサイトだけでも見たくなるような表現、雲のリアリティとか、すごく意識しました。

中村:参考にしたサービスや、影響を受けた広告プロジェクトはあるんですか?

井手:広告的なサービスの事例で言うと、週末の目的をつくるプロモーションは結構事例があったんですけど、行き先が決まっちゃっている。僕らはストリートビューのように“使われる”サービスを開発しようと切り替えた時に、こういう仕立てに進みました。その切り返しがよかったんじゃないかという気はしています。

中村:通常の認識の外側にある現象を知覚できるようにするというところに、価値がある。

橋爪:はっきりしない自然現象だから、そこに思いが馳せられて「見えるか見えないかわからないからいいんじゃないか」と怒られるかなという不安もあったんです。そこに手を出していいのかと、怖かった部分。でもありがとうという声が多かったので。

縛りの中で、尺度を広げる

中村:BC部門は去年できたんですけど、どう思ってエントリーしましたか。

橋爪:このカテゴリーができていなければACCでは受賞していないかもしれないから、ありがとうございます。勇吾さんが審査委員を引き受けているというところに、興奮させられました。グランプリはもちろんうれしいけど、ある一人に圧倒的に褒められるって今の時代っぽい。平均的に褒められるより、勇吾さんに圧倒的に褒められるほうが嬉しい。

井手:今回、BC部門ができてすごい広がったじゃないですか。いろんな物差しの尺度が広がって、ちゃんと審査されるようになった喜びがありました。審査する人が、僕らが尊敬していたり、実際にいいものをつくっている人であるということが賞の説得力だと思うので、去年の審査委員のみなさんは納得のラインナップでした。

中村:今年欠席って言いにくい……いろいろスケジュールが重なっててね。審査は、ジャンルの違うカテゴリーが集まっていて、審査委員の中でも価値観の差はありました。そもそも最近の広告における「PR」という概念を僕は知らなくて、「この『PR』ってのはプロモーションのことじゃなかったんですか?」という恥ずかしいやり取りが議事録に残っている。まあでも、開いている感じでよかったんじゃないですかね。

橋爪:勇吾さんが広告から離れて、去年審査委員に呼ばれて、いろんな変わったものを気にしながら審査して、いかがでしたか? 広告の可能性とか、やっぱりやりたくない(笑)なとか、率直な思いを知りたいです。審査してどうだったのかなと。

中村:難しい質問ですね。広告の仕事は好きなんですよ。なんていうんですかね、クライアントがやりたいことを受けて、いろんなことの奇跡的なバランスを探っていく感じじゃないですか。僕も広告界の人の影響を受けて、そのバランスを考える知恵が徐々に身についていったのは面白かった。

でも、その知恵によるこねくり回しは、最終的になんか意味があるのかなあ?とある時期に思い始めちゃったんですね。そこに膨大な手間をかけるんだけど、なんだか大変だなと思いはじめてしまった。それでまあ、連続でうまくいかないことがあって、徐々に心が折れていったんですけど。

佐藤裕香さん(AID-DCC/アシスタントプロデューサー)

井手:僕ら「広告代理店」というだけあって、やっぱり代理業なんですよ。

誰かのお金を使って、誰かの思いを誰かに届けるので、いろんな人の立場をめちゃくちゃ複雑に考えながらやらなきゃいけない、というのは、確かに。

橋爪:そういう意味では、これはなかった仕事。

井手:そうですね、シンプルに。社会の公器をつくるみたいな気持ちで。

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