母からの遺言「性格俳優になるな」、その思いは?(ゲスト:三上博史)【後編】

澤本さんの寺山修司を題材に書いた卒論の中身とは?

澤本:僕は寺山修司という人に興味をもっていて、ただ追っかけで見ていたので舞台は見れてないんです。ただ映画は初期のものを見ていて。僕が卒論書いたときは寺山さんの死後7周忌で、僕の大学は亡くなってから7年経ったら卒論書いていいという暗黒のルールがあったんです。

三上:へー、面白いですね。

澤本:僕は文学部だったから「寺山さんで書いていいですか?」と教授に聞いたら、いいよと。僕はずるいので、どうしたら一番楽に書けるかと思ったんですよね。

三上:それはそうですよね。

澤本:寺山さんって小説は『あゝ荒野』しか書いてないんです。だから『あゝ荒野』を研究すれば寺山修司の全ての小説を研究したことになると思って。ただ、『あゝ荒野』を研究しようと思ったら、短歌から全部入ってるじゃないですか。

三上:そうですね。

澤本:だから映画から見たものを「たぶん引用はここで、こういう風に『あゝ荒野』になってます」と。それについての解説を書いて、それで卒業させてくれました。

三上:出典がどこか調べると、結局大変なことを全部やらないといけないですね(笑)。

澤本:もともと好きで見てたものなので、ボクシングはここからきてるともってこれました。趣味でやってるものを書いてたら卒業できた感じですね。

三上:面白いですよ。15歳で寺山と出会って、僕が二十歳で亡くなってるので、結局5年間しかお話は聞けなかったんですけど。しかもずっと調子が悪かったので、めったに直接話すことはないんですね。だからまわりの人間たちから伝え聞いたことばっかりなんです。毎年5月4日が命日なんですけど、三沢に記念館があって、いまだに朗読に行ってるんです。もう10何年。毎年テーマが違って、歌詞、エッセイもあって、今年も行きます。

澤本:それは何人かで朗読をされる会なんですか?

三上:僕1人です。ミュージシャンを連れて、掛け合いながら、ときどき歌いながら。寺山は歌手の浅川マキさんの歌の詞など、いろいろな詞も書いてるので。楽しんでやってますね。

澤本:寺山さんは卒論で調べていくと、『あしたのジョー』の歌詞も書いてるし。

三上:そうなんですよね。「叩け、叩け、叩けー」って。

澤本:あと競馬もやってらして。だから寺山さんがやってらっしゃるのをマネしようと思って、ボクシングや競馬を見たりしました。短歌も「母殺し」などテーマがあって。僕は別に殺そうとは思わなかったけど、短歌をやってるとかっこいいなと。「血は立ったまま眠ってる」と書いてるとかっこいいぞ、これはと。

三上:本当に喜んでくれてると思いますね。かっこよくなりたい人なんですよ。

澤本:あ、そうなんですか。

三上:文章もかっこいいし、いつもトレンチコート着てね。

澤本:かっこいいですよね。僕見てないんですけど、観客を巻き込んだ舞台をやられたり。僕らは最近広告でやるじゃない。舞台と思ったらじつは事件が起こって…というのを1970年ぐらいからやってる人だからさ。

三上:小さい劇場でやるんですけど、天井桟敷(寺山修司主宰の演劇グループ)の芝居はカーテンコールがないのが普通なんです。寺山は今まで演じていた世界をパッと終わって、役者たちが違う人になって出てくるというのが気持ち悪かったんでしょうね。そのまま終わっていく。そのときに1人ひとりの名前を呼ぶんです。それが全部お客さんの名前なんですね。

権八:え?

三上:最初に調べてあるんだけど、怖いじゃないですか。

澤本:見てると呼ばれるんですか? 怖い。

三上:そう。だから登場人物なんですよ。どっちが客席かわからないという。

澤本:あなたたちも登場人物だよと。

三上:それを巧妙にいろいろなことでやっていったり。あと街頭劇といって、ハプニング的にやったり。いろいろなことをやってましたね。

次ページ 「三上博史さんと寺山修司の出会い」へ続く

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