テレビもまだまだ進化する
村本:ゴールドの1つめ、「KIRIN 試合結果連動ライブCM」は、サッカーワールドカップ最終予選で、日本の勝利が決まったらその試合直後にライブCMで乾杯するという、ものすごくチャレンジングな企画でした。
大澤:応募映像にはオンエアの裏側も映っていたんですけど、これ勝たなかったらCMが差し替えになるものだったんです。
ファンやサポーターを集めてその場で乾杯するっていうライブCMで、テレビ局から参加の審査委員の方々は、テレビ放送のいろんなフォーマットや制約がある中で、こんなチャレンジよくできたねっていうところを評価されていました。テレビでもそういう新しいチャレンジをしているんだっていう。
箭内:日本中が高潮するまさにその時、香川(照之)さんと川口(能活)さんと岡野(雅行)さんを始めとする現場の、日本代表勝利直後のリアルタイムの興奮と生の緊張とが、これでもかというほど伝わってくる。企画したこともそれを実現したことも当然凄いんだけど、僕は映像としても十分にクリエイティブな作品だと思います。これは下手な小細工を加えると熱が届かなくなる。
村本:ゴールド2つめは、テレビ朝日、東宝、ソフトバンク、Z会がタイアップした「君の名は。プレミアムセールス」。大ヒットした「君の名は。」を地上波で初放送する際に、そこで流れるCMも映画とタイアップして、「映画+CM」を一体としてエンターテインメント化したという企画です。
箭内:リアルタイムで見ていました。
村本:これからのエンターテインメントの新しい形をつくっているっていうことで皆さん評価されていました。テレビの楽しみ方での新しいチャレンジだね、という風に。
大澤:この作品は最終審査会の議論の中で上位にきたんですよね。1次審査の順位では入賞リストの外にあったんですけど、最終審査会で(博報堂DYメディアパートナーズの)嶋田三四郎さんが推されていて、その話を応援演説的に聞いて、最終的にゴールドまで上がってきたんです。
箭内:単純投票だけでない議論型の審査会の面白さですね。そしてそれは多様なメンバー構成だからこそ。
村本:いろんなメディアから審査委員の方が集まっているので、それぞれのメディアアセットの解釈の仕方が当然違ったりするんですよね。なので審査会では、それぞれのメディアアセットってなんだろうというところと、それを上手く使ったクリエイティビティってなんだろうということを特に議論しました。
大澤:あと、PR的な要素が強い作品は一旦別で考えようという話になって。
村本:〇〇をメディア化しましたという作品が結構ありましたよね。商品自体がメディアだったりとか、そういう作品はやっぱり面白いんですよ。
箭内:とはいえ何でもメディアなんだって言ったら、現在はすべてがメディアになっちゃいますからね。
大澤:それももちろんクリエイティブなんだけれども、ACCのメディアクリエイティブ部門では、メディアとクリエイティブの相乗効果を使って効果が出たような作品をしっかり選ぼう、と。PRのカテゴリーは、ブランデッド・コミュニケーション部門にあるので。
チャレンジを評価する
箭内:グランプリ・ゴールドの3つを見て僕が感じたのは、それぞれに「凄い」のベストを更新しているというところ。扱っている商品が、どれもまず凄い。「君の名は。」も、サッカー日本代表も、もちろんハイスタも。あ、お二人は凄いと言わなかったですけど(笑)
で、斜めから見ると「そもそも凄い商品を扱っているんだからそりゃいいよな」っていう風に思っている人もいるかもしれないんだけど、その好条件だけではだめで。そこで全員がヒットを打てるかっていったらそういうわけじゃなくて、ヒットを出すためには本当に難しいことをクリアしなければいけないんですよね。満塁で打席に立つような凄い商品ほど、どんなアイデアとチャレンジでさらに凄くしていくのか。だから「凄い × 凄い」なんです。やっぱり凄い仕事ってみんな欲しいと思っていると思うんだけど、なかなか自分に回ってこないじゃない。これ、ハイスタだって俺やりたかったですよ(笑)
村本:でも他に入賞しているものの中には、地方とかコミュニティを対象にした取り組みなんかもあって。
箭内:しっかり審査をしていくと最後はやっぱり評価されますよね。あと、応募要項に「クオリティは問わない、新しいことをしているかどうかだ」っていうことが明記されていて、それがとてもいいなと思いました。クオリティ合戦はCM部門に任せたらいい。そこがはっきりしているのはいいなと。
村本:地方紙さんからの応募も結構ありましたよね。やっぱりエリアと結びついているからか、使い方も含めて工夫があるものが多かった気がします。
雑誌に関しては、意外と何でもできちゃうからこそ、抜けたものがなかなかないという…その中でも集英社の「週プレ酒場」は雑誌を飛び出してリアルな体験の場所をつくったってことで評価されました。しかもプレイボーイというカルチャーの濃いものがきちんとその世界観と価値を外に持っていった、っていう感じで。これよくないですか、って話をしたら男性の審査委員の方々が、「俺が推したらちょっと…って思って推せなかった」って。村本さんが言ってくれてありがとうって。
大澤:私これ行ったことあるんですよって言ったら、「どうなのどうなの」って(笑)。
取り組みの中にも広くみんなに影響を与えるというものと、本当に伝えたい相手に伝えるっていうところの違いはあると思うので、その狙いが定まっていて効果が出ているのであれば、もちろん評価します。
箭内:いいですね。
大澤:去年もみなさん、自由に議論していましたよね。
村本:語る熱量がすごい方もいて、それはすごくよかったです。
箭内:「話題になる」とか、「バズる」という言い方がありますよね。広告自体が自己完結するんじゃなくて、それがどう二次露出していくかということにみんな腐心してた時期がありました。とにかくひとまず話題になればいいみたいな。愛や、思想はどこかに置いといて、ね。だけど最近は、話題の「質」が問われ始めているなととても感じていて。なんでもいいからスポーツ新聞やワイドショーに出ればいいんだとかではない。そこがポイント。一方で、広告をつくるときに、もちろん誰かを傷つけるのは論外だけど、クレームや炎上に対して必要以上に、とにかく360度方位に気を使わないと発信がされない。そんな中で、それでもそこを超えて思い切った愛を叫ぶようなものがちゃんと評価される場が、メディアクリエイティブ部門だな、と思っています。
村本:どう届いたか、っていうこともよく議論しましたね。何人に届いたかではなくて、その人たちにはどういう反響だったのかというところまで議論しました。グランプリの作品も、ただ単に楽譜を出しました、それがYouTubeに上がりました、ではなくて、この中にファンたちの嬉しそうな表現だったり、彼らが広げたみたいなところがあって、そこがよかったなって思いますね。