腰重ライターの生存戦略

【前回のコラム】「やりたい仕事で笑って生きていく」はこちら

時代に何か残せる文章を

会社を辞めて一年。名刺には恐る恐る「ライター」という肩書きを載せているが、まだライターの仕事だけでゴハンは食べられていない。それはライターという仕事の厳しさが理由ではなく、単に僕が腰の重い人間だからだと思っている。講座に通っていた同期のフリーランサーたちは、独立前と同等かそれ以上の収入を得ているというから、意識を持って取り組めば、きちんと食べていける仕事なのだろう。

腰が重いというのは、ライターとして致命傷のように思える。特に変化の激しい昨今。時代の変化を描くのが仕事のようなライターにとって、反応速度の鈍さは命取りだろう。

けれど腰の重さにも、一応、僕なりの理由がある。学生の頃から長く「書く仕事」に憧れてきたせいか、テーマや文体に関わらず、「書く」という行為を何か尊貴なものと捉えている節がある。少々大げさに言えば、「書く」ということは、時代の中に何かを残していく仕事だと思っているし、僕は残るものを書きたい。商業色の強いテキストや、世に出して数日後には価値が薄らいでしまう記事には、あまり興味を持てずにいる。

何のために、何を書くのか。映像仕事でなんとか食いつなげている分、文章の仕事には自分なりの納得を持って臨みたいのだ。

「なりたい自分」は見失わない

腰が重いと言っても、じっと座り込んでいる訳ではない。WebやSNS、新聞には毎日目を通し、アンテナにかかるものは全てメモする。関心ある分野の勉強会に出かけ、人と話してみる。「売れたい」という健全な欲求で自分を走らせ、何を書くべきか、どんな作品が生み出せるかと、日々自分の中で企画会議している。

ただ待っていても、仕事は降ってこない。やりたい仕事は自分でつくりだすのが、フリーランスだ。媒体ごとの特性を考えて、企画を投げてみる。自分一人ではぼんやりとしたままのアイデアでも、編集者と交われば化学変化も起きる。実際、そうやってWebの連載企画を実現し、書籍にまですることができた。映像仕事でも、自分の興味関心を常日頃からアピールしていたせいか、その分野の取材を振ってもらえるようになった。日々何かしらを書き、読み、筆の筋トレも続けている。

人よりゆっくりしたペースだけれど、前には進んでいる。融通のきかない自分を持て余しているせいで今日も財布の中身は寂しいけれど、「なりたい自分」は見失っていない。文章は、人間性がものをいう世界だ。バンバン書いて名を売るライターもいる中で、腰重ライターにしかできない仕事を実現していきたい。


廣瀬正樹(ひろせ・まさき)

名古屋市生まれ、東京在住。ライター、カメラマン。テレビ局で報道記者、カメラマンとして勤務し、2018年独立。Yahoo!ニュース特集などで執筆。第33期「編集・ライター養成講座」修了生。

 

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