これからのACC賞と広告
菅野:そういえばACCに新部門つくって、デザインカテゴリーがあるんでADC的にも仁義切ったほうが良いだろうと思って、報告に伺いつつ、審査委員をやってくださいと大貫(卓也)さんにお願いに行ったら「君の言っていることは正しい。ADCでそれをやるべきだ」って逆に返されてしまいました(笑)。でも井上嗣也さんが「Comme des Garcons」をACCに出すことはないだろうなと考えると、両方なきゃいけないんだろうなあ。
多田:あのデザイン、若い人が見てもカッコイイでしょ。広告的なものって、芸術とは違うかっこよさや面白さがあるじゃん。今のヴィトンは、すごくかっこよく見える、しかも広告的な面白さを感じる。
菅野:Virgil Abloh(ヴァージル・アブロー)は、Off White (オフホワイト)でやっていること以上に、ヴィトンでやっているほうが、刺激的に見えますよね。
多田:ヴィトンがヴァージル・アブローを起用したこと、彼がヴィトンでやっていること、それって全てがヴィトンのメッセージなんだよね。そして広告として機能している。いまの日本企業は“アンバランス”をあまりやらないじゃない。きちんとまとまったものをいっぱい見ている気がして。ヴィトンであれが成立するんだってワクワクした。メゾンとストリート、普段は対岸にあってお互いが関係ないと思っていたもの同士が出会って化学変化を起こす。意外と広告の面白さって、異物が混ざって変身するところなのかな。
菅野:その自由さが、広告から今失われつつある気がするんですよね。
多田:そうなんだよね。これからの広告に必要なテーマって、「自由」なんじゃないかと思った。みんな不自由を感じているから。どんな部門であろうと、自由な発想で生まれたらすごいなと。「この企業は《自由》を与えたんだ」「作り手は《自由》にやっていいんだ」それってわかる。
ヴィトンにそれを感じる。広告はワクワクするものであってほしいじゃない。俺たちは年代的に上のほうになっているから、本当はそんな環境をつくってあげないといけないんだけど。それをできずに「納品しなきゃ」で負けているところがいっぱいあるから。「広告って自由なんだね」と、そういう背中を見せなきゃいけない立場になっているんだけど。
菅野:アレッサンドロ・ミケーレの今のグッチもめちゃくちゃいいですもんね、あれこれ積極的にコラボレーションしていて、常に自由。ダッパー・ダンとコラボしていますからね。ブートレッグが正規品とコラボするとか。最高ですよね。
多田:ミケーレ、最初気が狂ったかと思ったもん。グッチどうした?と。昔ああいうサイケもあったけど、「今」これをやりますか、というのが。とにかくミケーレの強い思いが尋常じゃないレベルで伝わってきたことは確か。全てはぶち壊すことになってもいいというくらいの覚悟があったと思う。結果、それを受け入れたグッチもかっこよく見えた。ファッションが自由を取り戻した。グッチにとっては最高の「広告」でしょ。そういうの見ていると、まだまだヒントはあるのになあと思うんだ。あんまり理屈で分析ばっかりしてないで、創造の可能性を信じて人間が本能で「いい!」と思うものをアウトプットする。
今日は最初から「自由」について話したかったのかもしれない…って今思った。そんな話が菅野と話せてよかったです。ありがとう。
菅野:ありがとうございました。