ゲームデザインでもプロジェクトでも、「記録」が役に立つ

アイデアの記憶を外在化して残す

前田:ゲームには、プレイヤーにゲームの展開が見えるものと、あまり見えないものがあると思うのですが、ゲームの盤面に見えているものの多い少ないで面白さや進めやすさは変わるものなのでしょうか。

Saashi:まさにそこがゲームの根幹です。将棋のように、ゲーム終了まで展開がずっと見える完全情報公開型のゲームは強い人が勝ちます。初心者は経験豊富な人には絶対に勝てません。

そういう完全情報公開型のゲームは、小さな子どもから大人まで一緒になって遊ぶファミリーゲームには向かないんです。だって、歳上のお兄ちゃんには絶対に勝てないゲームなんて楽しくありませんよね。

だから、大人でも「ああ、やられた!」と、子どもにも負けるような可能性の出てくるアクシデントを仕込むんです。それをどんな風に仕込むかによって、情報公開のレベルは変わってきます。そこのバランスのとり方はゲームの面白さに関わる部分なので、ゲームデザイナーの腕の見せ所だと思います。

「二人零和有限確定完全情報ゲーム」である将棋は、偶然の要素がない

前田:未知のプロジェクトをやっていくうえで、そういう見えていないものをコントロールしたりデザインしたりする能力がすごく大事だと思っているんです。

Saashi:たしかに情報量をコントロールするのはデザイナーですが、あくまでそれは作る過程でデザイナーがとりあえずの形でも仮の最終点まで到達したから、コントロールできる形に収まったというだけです。テストプレイや試行錯誤の段階では、てんでダメな状態はたくさんありますよ。

前田:なるほど。ひととおりゲームの完成形ができたから、コントロールできるんですね。

Saashi:そうです。レコーディングの仮歌録りみたいなもです。最初は鼻歌で録って、そこに歌詞をのせたけど、発音しにくいから歌詞を一部変えたというように、調整しつつ完成形を作っていきますよね。そうやって歌詞とメロディーが完璧に決まっても、いつもレコーディングが一発録りとは限らないようにテストを重ねるわけです。

前田:そういう試行錯誤の記録はとっていますか。

Saashi:デザイン日記として残しています。いつ何を思いついたか。思いついたアイデアにどういう変化をつけていったのか。プロトタイプによるテストの結果はどうだったか等々、自問自答の箇条書きのようなものですけど全部書き残すようになりました。

その記録を見ると、半年前に開発途中でほったらかしたゲームのことも、いきさつを全部思い出せますし、そこから掘り起こしたアイデアを新しい別のゲームに転用するようなこともできます。日記はアイデアの記憶を外在化して保存する冷蔵庫のようなものだと感じています。

前田:すごいな。それは非常に示唆的です。プロジェクトでも、他人のプロジェクトや過去のプロジェクトで仮想演習をやっておくと、構造的なアイデアを思いつくことがあります。


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