道筋を見通す能力を身につける方法とは
前田:プロジェクトの最初の段階で、最終的なゴールまで見通せる視点を、僕はただただ持ちたいと思っているんです。それができれば、プロジェクトをもっと楽に進めることができるようになるはずですから。
ゲームをデザインする時の、最初にゴールまでの道筋をある程度見通したり、辻褄をつけたりできる能力は、どうやれば身に着くのでしょうか。Saashiさんは、そういう能力をどうやって身につけたのか、最後にヒントだけでもつかみたいのですが。
Saashi:いや、僕はまだまだ身につけていないと思いますよ。
先ほど、前田さんはプ譜(プロジェクト譜)を起こして仮想演習をするとおっしゃいましたけど、ゲームデザインも同じで、やはり経験値が高い人ほど道筋を見通せやすいのだと思います。
僕の場合は、テーマやストーリーがあった方がシミュレートしやすいですのですが、必ずしも最初に見通したとおりのテーマやストーリーのまま完成形に至るわけではありません。
先ほどお話した『コーヒーロースター』は、最初はコーヒー焙煎のテーマではなくて、死に際の老人が、自分の子ども時代から現在までの人生を振り返るというテーマで作ってました。
当時、僕は記憶哲学にはまっていまして、それをカードゲームにしようと考えたんです。
でも、実際に構想しはじめたら、あまりにも広範でまとまらない。どうしようかなと、コーヒーを飲みながら考えている時に、ゲームの構造上、コーヒー焙煎のテーマに変更してもいけるんじゃないかと思いついたんです。
実は当時、コーヒー焙煎にもハマっていまして、本格的に焙煎をやってみようかと3年ぐらい機械を購入するかで迷っていて、本をたくさん読んで研究していたんです。下地としての焙煎の知識があったので、すんなりテーマを移行することができました。
前田:これは、難しいけれど面白いですね。
Saashi:僕にとってテーマは、モチベーションを上げてシミュレートしやすくするためのものなんです。人生を振り返る老人のゲームも、コーヒーロースターのゲームも、「1人用ゲームが苦手な人が楽しめるゲーム」というデザインする上での僕の目標設定は変わっていません。ただ、テーマというアプローチの仕方が変わっただけです。
前田:プ譜もある種ストーリーだと思うんです。ですから、ワークショップデザインや問いの研究をしている人には、「プ譜はひとつの問題を表現している」という言い方をしています。
Saashi:先ほどの記録の話にも繋がりますが、やはりプ譜の一番素晴らしいところは、可視化できることですよね。話だけで進めているとダメな点はみんなに見えにくいけれど、プ譜にすることで容易に確認できるようになって、共有しやすくなるでしょう。スランプになった時も、それまでやってきたプロジェクトの良かった点や悪かった点をプ譜で振り返れば、ヒントを得られるかもしれませんしね。
前田:そうですね。プロジェクトの話で世に出てくるのは基本的に成功談で、記憶を都合よく呼び起こしたような印象を受けます。
プ譜はそういう情緒的なものとは違って、プロジェクトの構造の記録です。曇り無き客観的な視点で書かれたプ譜をたくさん収集して仮想演習をすれば、先を見通す力をつけることにつながるかもしれません。
Saashi:プ譜で可視化したものをチーム全員で共有しながら楽しくプロジェクトを進めていくのが正解かもしれませんよ。チームに活気が出ますしね。そういうプロジェクトは、おのずと良いプロジェクトになっていくのではないでしょうか。
Saashiさんが制作したゲームはこちらから確認できる。
前田 考歩氏
プロジェクト・エディター
自動車メーカーの販売店支援兼グリーンツーリズム事業、映画会社のeチケッティング事業、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など、様々な業界と製品のプロジェクトマネジメントを行う。子どもの探究心を育む「なんで?プロジェクト」。企業のイベントやセミナー設計のための共通言語をつくる「イベントモジュールプロジェクト」などを主宰。宣伝会議では、「web動画クリエイター養成講座」、「展示会出展実践講座」、「提案営業力養成講座」などの講師を担当。
書籍案内
『予定通り進まないプロジェクトの進め方』
ルーティンではない、すなわち「予定通り進まない」すべての仕事は、プロジェクトであると言うことができます。本書では、それを「管理」するのではなく「編集」するスキルを身につけることによって、成功に導く方法を解き明かします。
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