6,100万人との顧客接点を生かす、マツモトキヨシのデータ利活用戦略
社会に出てから23年、マツモトキヨシ一筋という松田氏は、まずは店頭での接点が中心としながらも、アプリやECといったデジタルでの接点も重視し始めていると話した。
現在、マツモトキヨシの公式アプリは1,030万ダウンロードを記録しており、LINEのフォロワー数も2,000万近い数に達している。
海外SNS のWechatフォロワー数に関しても、現地法人を持たない日本企業でナンバーワンと言われており、これまで国内で展開しているメンバーズカードの会員数2,700万を合わせると6,100万近い顧客との接点がある。松田氏はこの接点から得られる購買データをビジネスに生かしている。
マツモトキヨシは国内に1,650の店舗があるがドラッグストア業界全体を見ても、いまだに店舗数は拡大傾向にある。しかし近年、1店舗あたりの売上が低下する傾向にあり、店舗数が飽和状態に達した兆しも見えてくる。「これは競争が激化しているものの、プレーヤーが淘汰されていないから起こっている現象。ここ数年、業界内の企業の合従連衡が進んできたが、業界としてまだまだ大きく変わっていく可能性がある」(松田氏)。
店舗の“外”に積極的に出ていき、デジタルでも顧客との接点をつくる
各社が長時間営業や調剤薬局の併設率向上など、さまざまな対策を打ってきたというが、これを松田氏は「小売業というビジネスモデルの中だけで考えた戦略」と指摘。視野を広げ、例えばECなどデジタルを絡めた販売は、ホワイトスペースであり開拓の余地があると考えていると話した。
実際、ECやインバウンド、調剤などをのぞくと国内の顧客が店頭で衝動的に買い物をする分の売上は低下しているという。ECの売上を拡大させるだけでなく、デジタルの接点をリアル店舗の売上拡大につなげる施策も求められているようだ。
「消費者が店頭に来る前に意思決定を終えているのであれば、私たちが店の外へ出ていなかければならない。実際、O2O施策による売上は2期連続で増加しており、ECだけでなく、リアル店舗においてもデジタルの施策が売上に関与していることを実感している。以前のように店舗数を増やせば売上も伸びる時代ではなくなっている」(松田氏)。
トップ自らブランド戦略強化に舵を切る、ヤマハの挑戦
ヤマハは、楽器の総合メーカーという世界でも類を見ない特長を持ちながら、昔ながらの「良い物をつくっていれば、自然に売れる」というプロダクトセントリックの考え方から抜け出せず、消費者との関係構築も進んでいないことに課題を感じてきたという。
そうした風土を刷新しようと、ヤマハでは中田卓也社長がブランドを重視する方針を発信。近年、消費者との関係づくりやブランド構築に力を入れてきた。
その実行の中心を担うのが大村氏だ。ブランド価値を高めるために「Make Waves」というブランドプロミスを制定し、さまざまな活動に取り組んできた。「楽器は生活必需品ではないので、なくても人は生きてはいける。
だからこそ、私たちにしか提供できない価値を追求し、その価値に共感をいただき、世の中になくてはならない企業だと思っていただかなければならない。そういう存在になることを目指して、組織から整えているところ」(大村氏)。
各社の商品・サービス紹介の場面では、カジュアル管楽器「Venova(ヴェノーヴァ)」を持参。2017年のグッドデザイン賞の大賞を受賞したこの楽器は、新たな製法で製造され、耐久性やメンテナンス性に優れており、大村氏が試奏してみせると、その本格的な音色に参加者も驚きの声をあげた。
天才的創業者のマーケティング戦略を体系化し、継承する
大村氏が口にした職人気質の企業が抱える文化を変える難しさについては、各参加者からも意見が集まった。
ヤマハは医療機械の修理を生業にしていた創業者が、たまたまオルガン修理の依頼を受けたことから、現在のビジネスが始まっている。技術力の強みが良い意味で職人気質の企業文化を醸成してきたと言えるが、創業者の想いはブランド戦略の核にもなるもの。企業風土は現在の市場環境に合わせて変革する必要はあるが、継承すべきDNAを見極めることが肝要だ。
髙口氏は「天才的な感覚を持った創業者の業績を継承していくのは難しいこと。旧来型の徒弟制度だけでは継承できない」と話した。
加藤氏から、その継承方法について質問がなされると、髙口氏は「当社ではこれまで創業者の頭の中だけにあったようなものを見える化するために、一般的なフレームワークに落とし込み文書化することに取り組んでいる」と話した。
また関本氏は「日本だけでなく海外でもオリジネイターやファウンダーがいなくなって経営が厳しくなった企業がある。見聞きしたことを、経典のように書き起こしてまとめて、アカデミックに継承していかなければならないのではないか」と話した。
カリスマ的な経営者によって創業されたマツモトキヨシの松田氏も「よく社内では、創業者のDNAといった言葉が出てくる。
当社は社名に創業者の名前を冠している時点で、独自のブランド戦略が始まっており、社としての戦略を考える際にも、創業者の考えや哲学は重要。最近は、そうした考えや哲学を現代風にアレンジしようとするチャレンジが始まっている」と話した。
これを受けて関本氏は「カリスマ的な経営者が、自然体の中で実施してきたマーケティング手法を構造的に理解し、システムとして継承していくことがCMOの役割でもあるかもしれない」と話した。
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