『トイレのピエタ』の松永監督との出会いで芝居が変わった
権八:ちょっと話は変わりますけど、花ちゃんはご自身の中で転換期だった、あのとき私は変わったというときはありますか?
杉咲:さっき澤本さんが見てくださったと言っていた映画『トイレのピエタ』に出させていただいたときは、今までやってきたお芝居などを全部剥がされたというか。松永監督に本当に今までにない求められ方をして。この映画は1年以上かけてオーディションをやったんです。
澤本・権八:えー!
杉咲:オーディション一発目で怒るシーンがあって、自分が思うようにやってみたら、「おまえ、そんなの誰でもできるんだよ。こんなの俺にもできるわ」って監督にマネされたんですよ。「おまえ、やる気ないなら帰れよ」と言われて、私はそこで号泣して。オーディションで泣くことも初めてだったし、罵られるのも初めての経験で。でもそんな風に真向から向き合っていただくのが初めてで、そのオーディションが悔しかったけど、楽しかったんです。
権八:そうかー。
杉咲:それが忘れられなくて、絶対にこの映画に出たいと思って、オーディションに受かって出させていただくことができました。台本に書いている表現をやるんじゃなくて、本当に感じたものを表現する初めての経験で。泣くと書いてないシーンで涙が止まらなくなったりして、監督に「ここでは絶対に泣いちゃダメ」と言われたり。
そういう経験も初めてで、お芝居は嘘をつくことだと思ってたんですけど、嘘をつかないことが大事なのかもしれないって思ったんです。嘘のないお芝居をしたいって思うようになりました。
澤本:凄いですね。権八、人をまず怒れる? 「おまえ、そんなことだからこのCMに向いてねーんだよ」って、僕ら言えないもんね(笑)。
権八:言えないですね。
澤本:言って帰っちゃったら僕が怒られちゃうから(笑)。
権八:おっしゃる通りです。なぜ言えないかというと、腹が立つことがあっても嫌われたくなくて言えない(笑)。
澤本:心から怒ってるんだと感じてくれると女優さんも「あ、この人は」と思ってくれるけど、ただ怒ってる人になるじゃん。そうすると恥ずかしいよね。
杉咲:ピエタのときは怒られても愛情を感じたので、監督のことを絶対に信じていいんだと思ったんです。だから意外と、怒る=嫌われるには繋がらないんだなと思いました。
権八:さすがですね。
澤本:それをあの年齢で。
権八:あれは何年ぐらい前ですか?
杉咲:2015年だったので4年前ですね。その頃から映画が好きになって。
権八:2015年というと、『夜行観覧車』より後ですか?
杉咲:『夜行観覧車』のほうが前ですね。2015かな、そのへんですね。
権八:『夜行観覧車』も凄い芝居でしたけど、あれはまだ開眼するちょっと前だったんですね。
杉咲:そうですね。その後がピエタだったので。
権八:ピエタは見ないとですね。
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