バナー広告を見て、泣いたことはありますか?
パネルディスカッションでは登壇者が、参加者に対して質問を投げかける場面も多くあった。明石氏は最近、気になった広告、テレビCMがあるかを質問。そのうえで「僕は今、この問いかけをされて、あまり思い浮かぶものがない。自分たちが子どものころは、映像自体が珍しかったので、テレビCM自体も楽しんでみていたが今は、あらゆる場で映像の珍しさがなくなっている」と指摘した。
また井上氏は「バナー広告を見て、泣いたことがある人?」との質問が。井上氏が、この質問を投げかけた意図は「テレビCMやポスターを見て、泣いたことのある人はいても、バナー広告を見て泣いたことのある人は少ないのではないか」との考えがあってのことだ。それでは、なぜバナー広告を見て、泣くことがないのか。議論の中では、人の心を動かす「没入感」と「文脈」がないからではないか、との指摘があがってきた。
明石氏は「広告においては没入感が大事。例えば、繁華街のネオンの中にある看板は、なかなか没入できないと思う。インターネットは特に、自分の好きなものだけを見ている世界なので、自分の好きな人が出ていて、面白そうなことをやっていないと興味を引いて、没入してもらうまでにはならない」と話した。
また文脈という観点では、ナイキのアメフトのコリン・キャパニック選手を起用した広告(Believe in something, even if it means sacrificing everything)の事例が話題にあがった。この起用の前、キャパニック氏が人種差別に対する自身の意見を表明するため、試合前の国歌斉唱中に起立しなかったため、NFLから追放されていたという文脈があって、この広告が機能しているとの指摘があった。
また、このナイキの事例について井上氏は「広告を通じて、企業としての姿勢や人格が見える。人が興味を持つのは、やはり人。その背後にある人格が見えるような広告が人の興味・関心を引くのではないか」ともコメントした。
昔からあるフォーマットがテクノロジーで変わるかも?
ディスカッション中、登壇者の3名からも、今回のお題である「広告の新しいフォーマット」のアイデアが複数飛び出した。
「例えば昔、資生堂ではオリジナルのマッチ箱をつくっていた。今はマッチ自体を使わないので、マッチ箱は広告として機能してませんが、あえて便利ではないけれど懐かしいものにアイデアを加えることで、新しい広告フォーマットになる可能性がある」(小助川氏)
「日常の中にあるものでも、ちょっと離れて見てみると広告メディアになるものがあるかもしれない。例えば、冷蔵庫。扉は、表面積も大きいけれど、あまり活用されていない。デジタル、テクノロジーを駆使したアイデアでもよいし、思いきりアナログなものを使ったアイデアでも面白いのではないか」(井上氏)
今回のアワードのグランプリ賞金は100万円。パネルディスカッションの最後に、100万円を獲得するグランプリアイデアにはどんなことを求めているか、3名が各自の考えを話した。「小手先ではダメ。佳作どまりは目指さない」「背景にいろいろなものを内包しつつ、アイデアとしてはシンプルなものを見てみたい」「広告としての実現性は、考えなくてよいので、とにかく飛んだアイデアに期待したい」…など、複数のアドバイスが出てきた。
「Yahoo! JAPAN広告商品アイデアアワード」の募集受付は2019年7月31日まで。デジタル、アナログ問わず、あらゆるジャンルの新しい広告フォーマットのアイデアを募集している。