抽象化は創造性を生み、学びのもとになる
まず、具体的と抽象的とはどういうことなのか、「ハンバーガーの作り方」を例に考えてみたいと思います。
ハンバーガーのレシピを思い浮かべてみてください。たとえば、ひき肉200グラムに、みじん切りにしたたまねぎ100グラムを加えてこね、それをまるめてフライパンで焼き……というような細かい手順が思い浮かぶと思います。それが「具体的な」ハンバーガーの作り方です。
ご家庭によっては、ひき肉に混ぜるたまねぎは炒めたたまねぎかもしれません。バンズに挟む野菜や調味料も、それぞれのご家庭で好みが分かれるかもしれません。それはお店のハンバーガーも同じで、マクドナルドとモスバーガーとフレッシュネスバーガーでは、レシピが全然違うでしょう。
では、ハンバーガーの作り方を抽象的に説明するとどうなるでしょうか。
最初にお話した言語化の4つのステップを思い出してください。まずは「多くの事象を観察し」、しかるのちに共通点を見つけ出すことが抽象化だとお話しました。例えば、「肉類をミンチにして、かためて火を通す。それを野菜や調味料とともにバンズで挟む」。これは、どのハンバーガーにも共通する作り方ではないでしょうか。これが、ハンバーガーの作り方の抽象化です。このように、色々な「具体」、この場合ハンバーガーを解像度高く観察して、そこに共通する骨格の部分を抜き出すのが「抽象化」です。
では、抽象化すると何がいいのか。逆に言うと、具体化の何が悪いのか。先ほどのレシピのように、具体的な説明は非常にわかりやすくて理解しやすいのですが、そのレシピどおりにつくると、当然同じものしかできません。一方、本質を抽出した抽象的な説明には、「創造性を生む」というメリットがあります。ハンバーガーの肉類を魚肉にしてみようとか、調味料に味噌を使ってみようとか、柔軟な発想によって新しいものをつくる余地が出てきます。
また、物事を抽象化することで、何が起こるか?を予測することができるようになります。歴史とはまさに抽象化だと思うのですが、事象を時系列に並べただけでは、ただの物語になってしまいます。学問としての「歴史」は、起こった事象を抽象化して理解することで、将来を予測することではないでしょうか。第一次世界大戦に敗北したドイツは、多額の賠償金を課せられ、それを払うために非常に苦労しました。そうした状況の中でナチス政権が生まれてしまったのです。この事実を抽象化して歴史とすることで、第二次世界大戦でドイツが負けた時には、具体的な状況は異なるものの本質的には同じ状況だね、と判断し、「マーシャル・プラン(欧州復興計画)」を発動して借金を棒引きにしました。