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顧客体験の変革をベンチャー協業で加速させるR/GAの『ベンチャー・スタジオ・モデル』
R/GAはディスラプション(創造的破壊)を標榜し、「Nike+」をはじめとした洗練された顧客体験を提供するプラットフォームやプロダクトの開発、クライアント企業の経営幹部に向けて顧客体験を変革するコンサルティングを行うなど、広告会社の枠組みを越えて成長しているフルサービスエージェンシーである。世界18拠点に2,000名を超える社員が在籍しており、東京オフィスの活動も3年目を迎えている。
同社の特徴的なプログラムが、2014年からスタートしたベンチャー企業との協業モデルである『ベンチャー・スタジオ・モデル』だ。日系企業においてもオープンイノベーションへの取り組みが増える今、視察ではその取り組みに参加者の関心が集まった。
変化の速い環境の中で、顧客体験を変革するようなプロダクト、サービスを開発するためには、クライアントが解決すべき課題や新たに拡張すべき体験の内容に合わせ、最適なソリューションを持ったベンチャーをアサインする必要がある。
そこでR/GAでは現在、約100社のベンチャーと、同社が考えるポートフォリオマップに適したソリューションと協業している。ベンチャーとの協業においては、より強固な結びつきをつくるM&Aという選択肢もあるが、柔軟性とスピード感を生かすため、あえて緩やかな協業の体制をとっているという。
またR/GAのオフィスには、このスタジオ専用の執務スペースが設けられ、そこでは協業しているベンチャーに対してメンタリングやアドバイスなどを実施。単に同じオフィスで働くだけではないメリットを提供することが、約100社に及ぶベンチャーとの関係構築に生かされている。
話題化から購入までCXを向上させたナイキでの成功事例
このビジネスモデルを活用した成功事例のひとつに、ナイキのジョーダンブランドで行った「A/R Jordan」というプロモーション施策がある。米国におけるスポーツシューズ市場は日本よりも大きいものの、近年はD2Cなどの新興系のシューズブランドが増加。市場競争が厳しくなっている。
そのためナイキは、ジョーダンブランドのプレゼンスを高めていく必要に迫られていた。そこで新商品のシューズの話題化を促すだけでなく、実際に商品を購入でき、自宅に届くまでの顧客体験を総合的に設計する「A/R Jordan」が企画されることになった。
具体的には、決められたバスケットコートをスナップチャットのAR機能で写すと、マイケル・ジョーダンの有名なダンクシュートのポーズがARで見ることができるという仕掛け。ARのマイケルが履いているシューズは未発売の新商品でで、Eコマースで予約購入できる設計となっている。さらに注文したシューズは、2時間以内に配達がされる。
R/GAでは、このプロジェクトの体験の質を向上させるために、ベンチャー協業のポートフォリオの企業のソリューションを活用した。
時代を先読みし、まずは自社が変化し続け、より良い顧客体験を創出することを標榜するR/GA。そのために常に最適な事業モデルを構築していくというオープンイノベーションの新しい形態が垣間見えた視察となった。