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開発スピードを2倍にしたIBM流デザインシンキングの進め方
ITビジネスを起点としてきたIBMは、近年急速にその事業モデルを変革している。その中核を担うのが今回、訪問したIBMデザインスタジオだ。
IBMでは、ビジネスの顧客体験を最大化するためにデザインシンキングの手法を取り入れており、自社での成功から得られた学びを生かし、ほかのグローバル企業に対し組織コンサルティングや製造コンサルティングのソリューションを展開しているのだ。
デザインシンキングを浸透させた3つの取り組み
IBMが自社にデザインシンキングの手法を取り入れたのは、2012年から。ソフトウエアの市場が徐々に変化し、企業向けの製品だけでなく個人向けの製品にもレベルの高いユーザー体験が求められるようになってきていたにもかかわらず、対応スピードが遅れ、業績の悪化を招いたことがきっかけだった。それが、デザインシンキングの実践により、今ではユーザー体験が自社の強みだと言えるまでになった。
IBMがデザインシンキングの浸透のために実施したことは主に3つだ。まずひとつは、エンジニアの数に対してデザイナーの数が圧倒的に少なかったことから、デザイナーを大量に雇用したこと。デザイナーには3カ月かけてトレーニングを行い、ユーザー体験やビジュアルデザイン、デザインリサーチなどの各分野で何が求められているかを定義づけた。加えて、デザイナーのキャリアパスを開発して行動を評価する仕組みをつくり、積極的な姿勢で開発に取り組める環境を築いていった。
2つめは、フレームワークをつくったこと。例えば、大規模な組織がスピード感とスケール感をもってユーザーの課題解決を行うための「エンタープライズ・デザイン・シンキング」、個人のスキルレベルを可視化する「バッチング」、プロダクトやサービスに統一感を持たせるための「デザインランゲージ」などだ。
3つめは、デザインシンキングではさまざまな分野の人を含めたチーム内でのコラボレーションが重要になることから、コラボレーションを促進しやすいスタジオを設計したことだ。机の配置やスペースは自由にレイアウトを変えることができ、自由に使えるラジオ配信ブースもある。また、アイデアを付箋で壁に貼り、広くフィードバックをもらえるようにしている。
マインドだけでなく、実際の行動を変えていく
デザインシンキングのアプローチはシンプルで、どの組織でも適用可能だが、IBMのような世界的大企業の変革は容易なことではない。最大の成功の秘訣は、デザインシンキングの手法を話して聞かせるのではなく、実際に見せて経験してもらい、行動を変えていくことです。また、唱道者を置いて、彼らが話すことを、たくさんの人に同じように話してもらい、同じメッセージを何度も繰り返し発信することが重要だという。
IBMでは、世界中にある44のスタジオと2,000人のデザイナーに対してデザインシンキングを浸透させた結果、デザインにかかる時間を33%削減し、開発スピードを2倍に速めることができたという。