緊張のピークは最初の3分
永井:お客さまから受ける一番多い質問に、「人前に出ると緊張する。どうしよう」という悩みがあります。実は私も、子どものころからあがり症でした。ただ、あるとき緊張を活かし、自分の感情を伝える方法を発見しました。このコツを伝えると、皆さん大変素晴らしいプレゼンテーションをされるようになります。
下地:自信を持ってプレゼンするコツが、あったりするのでしょうか。
永井:プレゼンの目的は上手に話すことではなく、人を動かすこと。実は緊張しても、話下手でも構いません。コツとしては、最初の3分を攻略すること。手や足、声が震えたり、体が硬直したりするような激しい緊張は、永遠には続きません。最初の3分がピークなので、最初の3分を成功させれば最後まで維持できます。自分が話す姿をスマートフォンで録画して、チェックするのもおすすめです。
下地:緊張のピークである最初の3分に、避けるべきことはありますか。
永井:自己紹介と時事ネタ、自慢話の3つの話題ですね。私は頭文字を取って、「3J」と呼んでいます。「自己紹介をしないのは失礼でないか」という疑問もあるかと思いますが、ビジネスプレゼンの相手はテーマに興味があります。テーマを話さずに自己紹介を長時間していると、「早く始めてほしいな」と思われてしまいます。
最初の3分は、相手が話を聞くか聞かないかを決める、大事なタイミング。ですから、単刀直入にプレゼンのテーマから入るべきです。テーマから入れば、期待に最大限応えることができ、相手の満足度も確実に向上します。
悪代官モードで低い声を鍛える
下地:ほかにも、普段からできる練習はあったりしますか。
永井:簡単にできる練習が2種類あります。ひとつは、ただ「モーーー」と声を伸ばすだけの、1分間ロングトーンです。もちろん途中で息が切れますから、息継ぎをしても構いません。続けていると声質がよくなり、横隔膜も使えるようになってきます。
下地:「モーーーー」という声にも理由はあるのでしょうか。
永井:いい声を出すためには、口のなかの空間が大事になってきます。声の響く教会の天井が高いように、口のなかを同じ状態にするわけです。
もうひとつ、声をよくして説得力を高める秘策があります。実は、プレゼンの冒頭で一流かどうか判断される要素は低い声です。一流ホテルのコンシェルジュが甲高い早口で話さないように、低い声で話すと相手は「この人は真剣だ」「本音で話している」と感じ、安心します。
その信頼感と安心感を与える、低く響く声をマスターするのに分かりやすいシーンが、時代劇で越後屋が悪代官におまんじゅうを差し上げるシーン。そこで悪代官が口にする、「越後屋、お主も悪よのう」というセリフに、低い声で話す秘策が隠されています。
下地:非常に気になりますね。
永井:重要ポイントは、まずゆっくり息を吸い、口を閉じ、口のなかに空間を取ること。イメージとしては、口のなかにおでんの卵を入れる感覚です。そして、鼻から少し息を漏らすように、「フッフッフッ。越後屋、お主も悪よのう」と話してみてください。
ゆっくりとしたスピード感も重要です。そうすることで、自分に最適な低い声とスピードを知ることができ、本番で早口や高い声になることも防止できます。
上手いプレゼン5つのパターン
下地:私も『プレゼンの語彙力』という著書がありますが、少しのことで話の伝わり方が違ってくるのは実感しています。同じ内容なのに、話す人次第で相手の食いつきが違う場合があると思いますが、それもちょっとした語彙や言い方で差がつきます。
永井:下地さんはどのようにそれに気づき、高めていったのでしょうか。
下地:私はコクヨという会社に在籍していますが、理屈っぽく独りよがりな話をダラダラしがちで、お客さまの前で話すことが苦手でした。ただ、ある日先輩に、「『結論を先に言うと』ってまず言え」と言われ、スッキリしたことがあります。
永井:「結論を先に言え」というアドバイスはよく聞きますが、「結論を『先に言うと』ってまず言え」ですか。
下地:加えて、「『理由が3つあります』と常に言え」と。これは結論の次に理由を3つほど言うと話しやすい、ビジネス書にもよく書かれている「ピラミッドストラクチャー」という話し方です。実際にやってみたところ、確かに話が伝わりやすくなりました。
永井:そこが最初の気づきですね。
下地:ところが、その手法だと話に引き込まれないという課題も残りました。また悩んでいたら、今度は2つの動画がヒントになりました。
1つは岡崎体育さんの「MUSIC VIDEO」。その名の通り、ミュージックビデオのパターンを紹介する楽曲の動画です。もうひとつが、ウィル・スティーヴンの「頭良さそうにTED風プレゼンをする方法」。こちらは、内容がないプレゼンでも、ジェスチャーなどで話に引き込んでいく動画になります。
2つの動画から「上手いプレゼンにもパターンがあるかも」と考え、話が上手い人が口にするフレーズを、日々書き出すようにしました。すると、3カ月ほど続けたころに、フレーズにも類型があることが分かってきました。
永井:なるほど。
下地:代表的なパターンは5つあり、ひとつは比較を使うこと。例えば、「扉なしの収納だとスッキリするんです」と言うよりも、「扉つきより、むしろ扉なしの収納の方がスッキリ片付きます」と対比して説明するといいと思います。
2つ目は、あえてデメリットも伝えることです。何か紹介するときは、いいことばかり言ってしまう場合がほとんどですが、「すぐ慣れますよ」より、「慣れるまでに時間はかかりますが、大体1カ月くらいでできるようになります」と、デメリットも伝えた方が信頼感は高まります。
永井:デメリットを明かすことで、逆に信頼を高めるテクニックですね。
下地:そういうことです。3つ目は“ザックリ”言うこと。話がうまい人がよく使う「ザックリ言うと」というフレーズを耳にしたことがあると思います。
永井:池上彰さんもよく使いますね。
下地:例としては、「プレゼンでは表情や姿勢、服装も大事です」というより、「ザックリ言うと見た目が9割です」というイメージです。おすすめが「俯瞰して見ると」というフレーズで、これを使うと上から見ている、視野が広いという印象を相手に与えられます。
4つ目は、聞き手をイメージの世界に導く方法です。「想像してみてください。お店の前にすごい行列ができているところを」と、冒頭に「想像してみてください」というフレーズを使うと、聞き手は想像しようとする意識になります。これは実際に、五輪招致のプレゼンでも使われていました。
最後は、その場で取捨選択をすること。話が伸びたときも、「時間がないんで駆け足で話します」ではなく、「ここは重要じゃないんで飛ばしますね」ということです。重要であろうがなかろうが、「重要じゃない」と飛ばしてしまう。そうすることで、余裕がある人に見られたりします。
永井:確かに、言葉を意識してみると非常に効果的ですよね。
下地:料理で使うスパイスに似ているかもしれません。私自身が「この言い方はいいな」とメモを付けて後天的にプレゼン能力を身につけたのは、料理をしながら知識を覚えていく過程と同じ。『プレゼンの語彙力』から、使いやすいフレーズというスパイスを覚えてもらえれば嬉しいです。
【書籍案内】
『緊張して話せるのは才能である』 永井千佳著
大事なプレゼンの前に読みたい、緊張の取り扱い説明書!