「n=1」の価値を糸口にすれば、本質的な不満を探り出せる
なぜ、この施策では問題が解決できなかったのでしょうか?
それは「農業は儲からない」という「表面的な不満」に目を向けてしまったたことに原因があるのではないかと考えています。スタート時点で着目した「不満」に問題があったために、アイデアとしてでてきた「補助金」という効果的でない施策を採用してしまったのです。本来は、ターゲットである若年層自身にとっても無自覚であり、しかし本質的な不満に目を向けなければならなかったのと思います。
では、本質的な不満を見つけるには、どうすれば良いのでしょうか?
「不満は何ですか?」と聞いて、出てくる発言からは、すでに聞き飽きたような不満しか見えてきません。そこで、「価値」を糸口としてまず考えることが必要なとなります。反応して欲しい人、ここでいえば「農業に関心を持って欲しい若年層の人々」が感じている価値を探り出す。そして、その価値を糸口として、「本質的な不満は何か?」を理解するのです。そのように考えれば、自分自身でも自覚できていない、本質的な不満が浮かび上がってきます。
その時に使えるのが、前回も紹介した、このお気に入りの価値を糸口にして不満を考えるフレームです。次の各ブロックを順に埋めていけば、その本質的な不満に到達できます。
問題には解決すべきテーマとして「農業従事者の減少」と書き入れます。
次のブロックで、「n=1お気に入り事象」と、その価値を考えます。「n=1」とは、このような領域に関連することをしている誰かで、その人が行っている注目したい事象を書き入れます。
今回は若者層に関心を持たれていることを採り上げます。そして、解決したいテーマが農業という仕事をする若者を増やすことなので、仕事や働き方に関して彼らが気に入っていること、良いと思っていることから事象を探します。そのような事象の中から、今回は「9時5時でプライベートが充実しているワークライフバランスな生活を送る」を書き入れました。
そして、その「お気に入り事象」に、その人がどのような価値を感じているかを書きます。どんな良さを感じているのか、その人にとってどのようにポジティブな意味があるのか、を想像します。ここでは、「仕事もプライベートもメリハリがあって生活に充実感を感じる」という価値があると考えました。これで、不満を探るために活用するお気に入りの事象と、それに感じている価値が明らかになりました。
次に進みます。その事象と価値を糸口として、解決したいテーマに関連する不満は何か?を書きます。その糸口とする価値からみると、「農業」にどんな不満があるか?を洞察するのです。ターゲットとなる人たちが農業に抱いている不満を、「農業は『家業』で、生活全ての時間を捧げなければならない」と書き入れました。
最後に、その不満を解消するためのアイデアを考えます。ここでは、「週休2日で8時間労働のサラリーマンとして農業が出来る農業経営法人」という施策を考えました。
アイデアを考える際には、解決する側が持つ「強み」を意識します。ここでは、「法人」であることの強みが「週休2日」「8時間労働」といった形で活かされています。これがお気に入り事象の価値や解決する不満とかみ合うようにすることで、施策の成功の確実性を高めます。
書き入れたフレーム全体は次のようになりました。