「性差」を切り口にした顧客体験の再創造 – VOLVO (Grand Prix)
クリエイティブストラテジー部門の初のグランプリに輝いたVOLVO – The E.V.A. Initiativeについて紹介しよう。
簡単に紹介すると、女性が運転中に怪我をする確率は、男性よりも高いというデータがある。大きな要因の一つとして、ほとんどの自動車メーカーが、いまだに衝突テストで成人男性をベースとしたダミー人形だけを使用している。つまり、性差によって安全性に差があったのだ。その差をなくすために、妊婦なども含めた様々な体型の成人女性をベースとしたダミー人形を使用して衝突実験を行い、実験現場からも性差をなくすことで、「常に安全でなければならない」というVOLVOの企業理念を体現している。
また、VOLVOは、1970年から4万台以上の車と7万人以上の乗客からデータを収集し分析を続けている。それを自社のためだけに活用するのではなく、自動車業界の競合他社も各種開発に活用できるように共有したことも特徴だ。
グランプリの発表後、周りからは他の作品の選出を期待していたという声もあったし、作品として際立ちインパクトのあるキャンペーンが他にも存在していたのも事実だ。だが、VOLVO – The E.V.A. Initiativeは、「性差」を切り口に「顧客全体の安全」に拡張させた上で、短期ではなく長期の取り組みに変えて自動車業界全体へ影響を与えたこと、そして自動車産業における顧客体験向上のエンジンになったことが、グランプリ選出にあたっての大きな判断軸となった。
グランプリ以外にも受賞ランクに関係無く、個人的に戦略としてのアプローチが優れていると感じる作品を2つ紹介したいと思う。
早い、安い、うまい – BACK MARKET
中古スマホを扱うフランスのスタートアップ「BACK MARKET」が行った米国向けキャンペーンだ。セレブリティによるインフルエンサーキャンペーンをやろうにも、セレブリティにSNSで1件ポストしてもらうだけでも多額の資金が必要になる。予算が限られている中、彼らはセレブリティが過去に(その旧型の)スマホについてツイートしていたことに注目し、その過去のツイートをプロモーションキャンペーンに活用したのだ。
中古を扱うスタートアップが、中古の広告を活用し、中古の商品を売る、という「中古を活用しまくる」というアイデアが全てにおいて体現されている事例だ(クリエイティブストラテジー部門ではシルバーライオンを受賞)。
舵取りの判断は一体誰か – NIKE
今年のカンヌで最大の話題になったNIKEのDream Crazy。アメリカ社会が二つに分断され、同時に不買運動が起き、トランプ大統領をも動かしたこの施策は、ブランドとして大きなチャレンジだったことは紛れもない事実だ。
「戦略」という面においては、我々の審査カテゴリーではそこまで評価は高くなかった(クリエイティブストラテジー部門ではブロンズライオンを受賞)。だが、この作品において個人的に最もフォーカスしたい点は、「一体誰がこのキャンペーンを推進したのか」という点だ。おそらくマーケティング部だけの取り組みではない。こうした大きな判断の裏には、CMOのみならずCEOをはじめとした経営層(CxO)の決裁がそこに存在していたと推測する。
後編では、審査から見えたポイントと、我々が今後行うべきアクションについて紹介したい。
清水武穂
アクセンチュア株式会社 デジタル コンサルティング本部
アクセンチュア インタラクティブ シニア・マネジャー
前職は、デジタル・クリエイティブ・エージェンシーであるAKQAにてデジタルにおけるブランド体験の戦略立案、コミュニケーション戦略の立案・実行に従事。2015年、アクセンチュア インタラクティブに参画。ブランド エクスペリエンス デザインのチームを立ち上げ、新規事業開発などデジタル変革に向けたブランド体験の戦略立案、設計、実行に従事している。
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