業界の常識「広告はセールス」はいつから広まった? 広告の歴史を学ぶ その➁

「広告はセールス」の時代の矛盾

ポール・フェルドウィックは、「広告がセールス」という考え方を否定しているわけではありませんが、この時代に語られた広告に関する考え方には、いくつか矛盾する主張が含まれていることを指摘しており、それは現代においても広告業界ではいまだに上手に解決されてはいません。それは以下のようなものです。

1. ホプキンスは「長いコピー」(情報の多さ)のほうが効果的であると主張しているが、リーブスは「ただ一つのメッセージ」が重要であると説いている。
2. ホプキンスでは「広告は特定の見込み客のみに呼びかけるもの」だが、スタークは「多くの人々のアテンションを得るのが広告の効果」である。
3. ホプキンスでは「広告はすぐに行動を喚起するもの」だが、ギャロップ、リーブスは「広告は人々の記憶にメッセージが残るもの」である。

これらの矛盾は今ならダイレクトレスポンス広告とブランディング広告の違いと言うでしょうが、そのような区別が前提としている考えは、前者が「商品を売る広告」であり、後者が「ブランド認知を上げる広告」であるものです。しかし、当時の論者は両方とも「売る広告のための最良の方法」を考えた結果なのであって、そのような目的の違いを議論したのではなかったのです。

フェルドウィックは、実際にリーブスが手掛けた広告の効果がどのような実績があったかほとんど当時の資料が残っていないと言っていますし、彼が「ただひとつのメッセージが重要」と主張している個所でも、具体的な広告の例については何も言及しいていないと述べています。また、ホプキンスについても、彼の方法が本当に「科学的」であったのなら、当時の広告がすべてホプキンスの提示したルールに沿っているかといえば、実際はそんなことはなかったという事実を同時代の広告を参照して語っています。

「広告はセールス」という考えは、ポール・フェルドウィックが主張するように、後世の広告業界には非常に大きな影響を与えたことは間違いないのですが、実際の広告従事者たちにとっては、そのような制限のみで広告をつくっていたわけではなかったということです。そしてセールスのツールでない、合理的説得やメッセージが含まれないような広告でもビジネスの成功に貢献した事例が実際にはあるのです。次回はそのような考えを紹介していきたいと思います。

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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