戦略そのものが持つクリエイティビティを引き出すとき — カンヌライオンズ審査レポート 後編

審査から見えた3つのポイント

今年のカンヌライオンズで、審査員たちと度々議論になったポイントを3つにまとめて紹介しよう。

1.目的のサイズ

今回、「Purpose(目的)」という言葉がこの審査で最も多く出たキーワードだった。それぞれの作品が持つ「目的のサイズ」が一体どのくらいなのか、ということだ。仮に「たくさんシェアされること」という目的が目の前に存在するとしよう。普通なら、その目的に真っ向勝負するのが一般的だろうし「御用聞き」であればそれで十分かもしれない。

だが、俯瞰すると「たくさんシェアされる」ためには「自社を好きになってもらう」という目的に変換することに可能であり、さらに俯瞰すれば「自社が社会に何かを提言する」というレベルにまで目的を昇華させることができる。つまり、クライアントのパートナーとしてクライアントの景色を変えることが可能になるのだ。

目的のサイズ設定が、アウトプットの大小を左右する大きな問いかけになるのは間違いない。また、結果として企業の運命そのものを左右する重要な判断とも言える。

2.文化・文脈からのアプローチ

前提として、企業がコミュニケーションする相手は「顧客・消費者」である。だがその顧客・消費者は、国籍・人種・性別・宗教・趣味・日々の興味など、一人ひとり異なる背景を持った「ひとりの人間」であり、彼らは日々さまざまな文化や独自の文脈の中に生きている。

今回のグランプリであるVOLVO – The E.V.A. Initiativeは、まさに「女性特有の文脈」から顧客全体に波及した最たるケースと言える。戦わずして勝つために、ある特定の文脈にフォーカスしたことで、最短・最速・最安でより多くの顧客に自社の理念を浸透させ、クライアントのビジネスにポジティブな影響を与え、さらに社会的なインパクトも与えることができたのだ。

3.CxOイシューかどうか

これは「1.目的のサイズ」をどう設定するか、という話に関わってくるのだが、目的のサイズの大きさ次第では、マーケティング部門だけではなく、CxOによる決裁が必須になる。

今回受賞したいくつかの作品は、不可避な社会問題と向き合う施策がいくつも存在していたが、それらはマーケティング部門だけの決裁ではなく、CxOによる決裁が必要になるものばかりだった。つまり、企業自身がある程度のチャレンジを行うためには「CxOイシュー(CxO案件)」に昇華させることが必要であり、CxOを巻き込んでこそ、目的そのものを拡大させ、よりインパクトのある施策が実現可能になると言える。

審査が全て終わった直後、日本のプロダクションチームが用意してくれたスペースでカレーライスを頬張りながらのんびりと海を眺める。

次ページ 「評論して「理想」で終わるか、それとも行動して「実現」させるのか」へ続く

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