広告で「心理学」がタブーになった理由とは? 広告の歴史を学ぶ その③

サブリミナル広告の影響 心理学の知見は広告業界のタブーに

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みなさんはサブリミナル効果、という言葉を聞いたことがありますか?これはCMの映像の中に、ほんの一瞬視聴者が、気付かない程度にメッセージを盛り込み、無意識に働きかけるという手法です。たとえば、CMの映像の中に「ポップコーンを食べろ」というメッセージを入れることによって、知らず知らずのうちにポップコーンを買わせてしまうといった手法です。

現在では、米国や日本など多くの国でこのような知覚できないメッセージや画像を広告に使う、サブリミナル広告は禁止されていますが、この“無意識を操作”するという考え方はヨーロッパに端を発する精神分析、そして心理学の知見から来ています。

心理学を広告に取り入れるという考えは20世紀の半ば、米国が広告の黄金時代を迎えていた頃に始まったのですが、その後、急速に衰退して米・広告界ではタブーにさえなりました。その理由は、サブリミナル効果の実験の結果により、大衆が無意識のうちにマインドコントロールされるのではないかという話題が、スキャンダルとなったことがきっかけでした。

その①その②に続き、今回もポール・フェルドウィックの『Humbugの解剖』から、主に米国の広告の歴史について語っていきたいと思います。おさらいしますと、ポール・フェルドウィック氏は私が90年代半ばに所属していたオムニコムグループ傘下のDDBワールドワイドというグローバルエージェンシーの戦略プランニングのヘッドを務めた人です。紹介する『Humbugの解剖』は、彼が2015年に出版した書籍です。

今回は、広告の歴史における「心理学」が与えた影響について見ていきましょう

広告のアートは合理説得以上のコミュニケーション

前回のコラムで触れたように、いまだに広告業界において「合理的説得(rational persuasion)」という考えが根強いのは、クロード・ホプキンス(1923年に『Scientific Advertising(広告マーケティング21の原則を刊行)やロッサー・リーブス(広告会社のテッド・ベイツ創業者、USPの概念を提唱、1961年に『Reality in Advertising(広告の現実)』を刊行)など、影響力のある広告業界の人たちによって一般的に使われるようになったことが背景にあります。

フェルドウィックも主張しているように、「広告はセールス」という考え方は、広告から受け取った言葉によるメッセージを消費者が頭で理解し、それを納得したうえで買う、という行動にいたるというプロセスということになります。しかし、実際の購買行動はそんな単純なものではありません。

それは違う形で言えば、広告とはアート(芸術)の表現を活用しているということです。芸術は合理的に頭で理解することではなく、視聴者の知覚や感情に響くものだからです。

それはプリント広告では美しい写真やイラストやシンボル、そしてテレビCMでは音楽や音声をともなうドラマチックで感情移入しやすい動画表現が使われます。そしてそれらが人に影響を与えるのは合理的理解だけではありません。

それは広い意味で「心」にも響くものです。したがって広告に心理学的知見を活かすというのは自然な流れだったのかもしれません。

 

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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