転換期を迎える、日本のメディアビジネスを考察する — ①テレビ篇

失われつつある放送法の優位性、競合が増える日本のテレビ産業

それでは米国でのテレビ局の先進的な動きを受けて、日本のテレビ局はどう変わってきたのだろうか。

長年、法的な規制もあり新規参入がしづらい守られた業界だったが、スマホというユビキタスデバイスの普及、同時配信の開始など、家庭にあるTVというデバイスで放送番組を見るという従来の行動が変化してきており、様々なビジネスモデルやKPIの変更を余儀なくされている。

視聴率という絶対的なKPIもネット配信というモデルの前ではその意味や定義を変更せざるをえなくなってくるものと予想され、インプレッションやエンゲージメントベースでのKPIが今後形成されていくだろう。また、それに伴い商流が変わり、レベニューモデルや関係するステークホルダーの力学が変化していくと予測される。

まずは、ビジネスモデルの変革への対応から見てみよう。放送局にとって最も大きな破壊圧力はやはりOTTのインパクトだろう。日本でも2020年には全放送局で同時配信が認可される見込みで、ネット配信と放送波でのコンテンツ配信のすみ分けが消費者の間で検討されていくだろう。

米国ではすでに放送枠とネット配信枠の双方を融合させた広告モデルが現出しているが、これも視聴者を中心に据えるとごく当然の帰結だと思える。もともと放送コンテンツとネットコンテンツは見る側の視聴態度が違うので競合にはならないといわれてきた。リーンアウト/リーンインの原理だ。しかし、今はTV受像機というデバイスにネット配信のコンテンツを載せるOTTビジネスが現出して市民権を得たので、この論理は破綻している。言い方を変えれば放送波が持っていた優位性が失われたといっていい。

そうなると結局はコンテンツそのものの問題になり、あまねく広く支持されることを目的として制作されたコンテンツから、視聴ログを分析し、その人の好みに合致したパーソナライズド・コンテンツが重要になってくる。この流れに日本の放送局も対応を開始してはいる(TVer専用コンテンツの制作、各放送局でのオリジナルコンテンツなど)。

また、最近はこの動きの逆のモデルともいえるvMVPD( Virtual Multichannel Video Programming Distribution)というビジネスモデル、つまりネットプラットフォームに放送局のコンテンツを乗せて配信するというモデルも現出してきており、いろんな意味で放送と通信の融合が進んでいる。

日本では、今は放送局自体のビジネス状況は悪くなく、危機感がない状態であることは事実だが、従来は競合ではなかったプラットフォーマー(ECプレイヤーや通信企業など)が5Gインフラを活用してコンテンツ配信事業に本格的に乗り出してくると、もともと消費者の購買行動データを持っている強みがあるため、現状の放送局にとってはマーケティング上の競合になってくることは否めない。

次ページ 「視聴率にも変化の波、テレビ産業の新たなビジネスKPIとは?」へ続く

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森井理博(PwCコンサルティング マネージング ディレクター /事業構想大学院大学 特任教授)
森井理博(PwCコンサルティング マネージング ディレクター /事業構想大学院大学 特任教授)

データベースをフルに活用した「バックキャスト・マーケティング」という新たなマーケティング方法論を提唱。1989年電通入社。マーケティング局で戦略プランニング、営業統括局でCS放送局の立ち上げ並びに中国プロジェクト(在任中に「アジアビジネススクール」修了)を担当後、世界最大の外資FMCG企業のアカウント責任者。2014年あきんどスシロー入社、取締役・執行役員 マーケティング本部長。2016年Peach Aviation 執行役員 データドリブン・マーケティング本部長。2018年9月より現職、事業構想大学院のマーケティング担当・特任教授も兼務。

森井理博(PwCコンサルティング マネージング ディレクター /事業構想大学院大学 特任教授)

データベースをフルに活用した「バックキャスト・マーケティング」という新たなマーケティング方法論を提唱。1989年電通入社。マーケティング局で戦略プランニング、営業統括局でCS放送局の立ち上げ並びに中国プロジェクト(在任中に「アジアビジネススクール」修了)を担当後、世界最大の外資FMCG企業のアカウント責任者。2014年あきんどスシロー入社、取締役・執行役員 マーケティング本部長。2016年Peach Aviation 執行役員 データドリブン・マーケティング本部長。2018年9月より現職、事業構想大学院のマーケティング担当・特任教授も兼務。

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