「左脳の右脳化」について、2000文字程度で要約せよ。宣伝会議さんから、なかなか厄介な依頼が来ました。自分がこれまで感じてきたことや考えてきたことをぐっと凝縮したのがあの原稿だったのに、それをさらに要約しろなんて御無体な…。
いささか困った僕は、まずこの本を手にとって、寄稿させていただいた文章をあらためて精読しました。ああ、良かった…今のところ、僕自身の考えに大きな変化はないみたいです。
「左脳の右脳化」。この言葉を聞いてワクワクする方は皆無だと思います。僕がこのような思考に至ったのは、何より僕がフリーランスのコピーライターであることに起因しています。コピーライターの数だけ仕事の仕方があることは、本書をお手に取った方はすっかりお分かりかと思いますが、僕は大半の仕事を一人で書きますし、弟子を育てたりすることもありません。
いわゆる横のつながりも乏しいですし、仕事終わりに酒場で熱い広告談義を交わすこともほぼありません。サウジアラビアのガワール油田のように、つねに淡々と、安定して質の高い言葉を供給する。僕の興味はそこにあります。仕事によって、コピーの出来が乱高下してはいけないし、コンディション次第で周囲を振り回したくもない。そのためには、自分で自分のペースをしっかりコントロールし続けなければならない。すなわち、自分を厳しく律するプロセスを確立する。その試行錯誤の果てにたどり着いたのが、左脳の右脳化でした。
そうなんです。つまり僕が書いたのは発想の方法ではなく、仕事への向き合い方の話なんです。
・相手の話をちゃんと聞く
・仕事は寝かさず、すぐにやる
・ダメ出しされても、凹まずにすぐ考える
・なるべくたくさん仕事をして、経験値を貯める
ほらね。僕なんかに言われなくても、当たり前すぎる話しか書いていないんです。
そう考えると、コピーライターって特別な仕事じゃないんですよね。本書にも書かせていただいた通り、そもそも僕はクリエイターという言葉に強いアレルギー反応を持っていて。「クリエイティブ」という言葉によって、あらゆる不義理や理不尽が赦されてしまうのは、根本的に間違っていると思うんです。
人に迷惑をかけない。人を不快にさせない。そのために、自分がやるべきことをちゃんとやる。少なくとも、それが自分のテーマであり、生命線だと肝に銘じて毎日仕事に臨んでいます。「つまんないこと言いやがって」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、しょうがないじゃないですか。これが僕の正直な想いなんですから。
ところで、「想い」という視点でこの本をあらためて見つめると、めちゃくちゃいい本であることに気づきます。ブンブンと唸りを上げていい広告を量産している一流の制作者の方々が、自分のスタンスやスタイルを、つまりは広告に対する「想い」を惜しげもなく披露している。しかも、それぞれが生の言葉で書かれているので、その方なりの語彙やスピード感もビシビシ伝わってくる。
これは面白い!抽象的かつ変化し続ける思考を、きっちりと言語化できる(しかもチャーミングに)。コピーライターって、やっぱりすごい仕事ですよね。
この本を上手に使うコツは「すべてを鵜呑みにしないこと」だと思います。書かれていることは、書いた人の思考そのものだし、その意味ではすべてが正解です。かと言って、ぜんぶを実践しようとすると、たちまち飽和状態に陥るはずです。じゃあ、どうするか。まずは、何度か読み返してみる。そのうち、気になるフレーズが脳に滞留しはじめる(はず)。次に、それを実践してみる。うまく行ったら、今度は別のフレーズを自分に取り込んでみる。
そうやって一歩ずつ、自分のスタンスとスタイルを確立しながら、コピーに対する自分の「想い」を見つけ出していく。たとえば、そんな活用法はいかがでしょうか。
世の中はありえないスピードで変わり続けるし、コミュニケーションのあり方も日進月歩で変質します。けれど、コピーライターの本分=「言葉を用いて伝える」は、永久に不変であると信じています。広告を取り巻く環境が変わっても右往左往しない、強い書き手でありたい。僕自身、いつもそう願っています。はたして、うまく行くと良いのですが…。
物事を整理して、言葉でわかりやすく伝える技術をトップクリエイターが解説!
『コピーライティングとアイデアの発想法 ~クリエイターの思考のスタート地点~ (宣伝会議養成講座シリーズ)』
執筆者一覧(50音順、敬称略)
赤城廣治、麻生哲朗、磯島拓矢、岩田純平、岡本欣也、倉成英俊、児島令子、小西利行、こやま淳子、下東史明、菅野薫、谷山雅計、玉山貴康、都築徹、角田誠、中島信也、中村禎、左俊幸、藤本宗将、細田高広、眞鍋海里、三井明子、山口広輝、山本高史、横澤宏一郎、渡辺潤平
【本書の構成】
はじめに 仲畑 貴志
第一部 アイデアの発想法
発想のカギは オリエン・企業・商品
磯島拓矢 アイデアの起点は商品に決まっているけれど
岡本欣也 コピーライターの仕事は、まず書くことより聞くこと
谷山雅計 コピーの「とっかかり」をどうつくるか
都築 徹 取材と距離
中村 禎 考え始める前に考えること
渡辺潤平 左脳の右脳化
発想のカギは 思考法
麻生哲朗 一歩目の覚悟
児島令子 書きたい気持ちをムクムクさせる。
小西利行 新しい世界を見るために、やるべきこと
玉山貴康 積み上げながら 逸脱しながら
角田 誠 絶望の淵に立つ
眞鍋海里 アイデアの設計図はありますか?
横澤宏一郎 先ず、ブイより始めよ
発想のカギは 書くこと
岩田純平 とりあえず書いてみる
こやま淳子 からだを動かすと頭も動きだす
藤本宗将 白紙のWordファイルがアイデアの起点
三井明子 方法論は、“やみくも”に考える
発想のカギは 最後まで検証
赤城廣治 まだコピーじゃないんだけどね大作戦
中島信也 「おりこう山」と「おばか山」
左 俊幸 ギリギリまで考える
細田高広 逆算のコピーライティング
山口広輝 広告を「人」に置き換えてみる
発想のカギは 日々の過ごし方
倉成英俊 「このコピーの時間は、先生の都合により、自習にします。」
下東史明 何をウダウダ言っているのか?
菅野 薫 好きでしょうがないことの蓄積と組み合わせが個性になる
山本高史 日々、起点。
第二部 未来のコピーライターへの手紙
池田定博、池端宏介、石井陽一、磯島拓矢、一倉宏、岩田正一、上野達生、占部邦枝、大久保浩秀、岡本欣也、岡本達也、尾崎敬久、河西智彦、國武秀典、倉成英俊、児島令子、こやま淳子、坂口二郎、高崎卓馬、田中幹、谷山雅計、玉山貴康、都築徹、手島裕司、東井崇、東畑幸多、戸谷吉希、虎尾弘之、中尾孝年、長岡晋一郎、中川裕之、中島信也、中村禎、早川和良、左俊幸、廣瀬泰三、福里真一、福部明浩、古川雅之、松井薫、三浦清隆、三井明子、宮保真、村田俊平、森俊博、山本高志、渡辺潤平