※本記事は宣伝会議主催のイベント「コーポレートブランディングカンファレンス 2019」(7月2日)内で行われた講演をレポートしたものです。
LIFULL(ライフル)×パーソルホールディングス
ブランド価値は企業戦略の中心
—2社とも近年、社名を変更しました。社名変更とコーポレートブランディングに注力することになったきっかけを教えてください。
川嵜:私たちLIFULLは、「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージを掲げ、世界中のすべての人の暮らしや人生を、安心や喜びで満たすライフソリューションをつくっていこうと事業運営をしています。
「LIFULL HOME’S」という日本最大級の不動産・住宅情報サイトがよく知られていますが、それ以外にも介護やインテリアなど、あらゆるライフソリューションを提供しています。
そんな私たちが2017年4月に「ネクスト」から「LIFULL」に社名を変更したのは、企業の根幹となるマスターブランド戦略を推進していく必要があると感じたからです。
しかし消費者から「どんな事業を展開している企業なのか分からない」という声が寄せられるなど、課題も出てきました。そこで、「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージを一方的に伝えて社名認知を高めるだけではなく、消費者にとってどのような価値があるか、専門用語で言えば“ブランドパーパス(ブランドの存在目的)” を明確にする必要性も感じました。
大橋:パーソルは「はたらいて、笑おう。」をコーポレートスローガンに、人と組織に関する社会課題を解決していく企業グループになります。
人材派遣のテンプスタッフとして1973年に設立され、認知度の高かった傘下企業の「テンプスタッフ」「インテリジェンス」という社名を2017年7月に変更しました。一番の理由は単一事業を超え、グループ一体となって新たな価値を顧客や社会に提供していくためでした。
我々は国内外でのM&Aを通じて拡大し、順調に成長してきました。しかし、今後は日本国内で労働力不足が確実に起こり、産業構造の変化やダイバーシティへの対応も迫られていきます。
外部環境の変化が著しい中、「このまま縦割りの組織で派遣事業と人材紹介事業ごとにソリューションを提供していても、クライアントの経営課題を解決できない」という問題が出てきたため、私たちも提供価値をアップデートしていこうと考えました。そのために議論を続け、2014年末にグループ経営に舵を切り、PERSOLという統一ブランドの導入も決断しました。
川嵜:ブランド価値は、私たちも非常に重要視しています。例えば、日本に多くみられるのが、サービスの仕組みや技術力の差で競合他社と差別化しようとする企業です。ただ、当社代表取締役社長の井上高志の言葉を借りれば、「サービスの仕組みやテクノロジーでは差がつかない、競合と同質化してしまう」という状況もあります。
アメリカのAppleやGoogle、Amazonなどでは、一貫したブランド戦略をベースにイノベーションなどを重ねていく活動があります。私たちもそれらのグローバルカンパニーのように、ブランド価値を積み上げていくことで競合他社との差別化を図ろうと、一貫したブランド戦略に取り組んでいます。
まず取り組んだのは、「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージから、消費者が我々の価値をどのように見てくれるかという、ブランドパーパスを改めて定義することでした。そして、そこから導き出されたのが、「まだ手つかずの問題でも、視点を変える発想で豊かさに変わっていくはず。そしてあらゆる人が、当たり前に無限の可能性の中から自分の生きたいLIFEを実現できる社会へ」という定義でした。
このブランドパーパスをすべての戦略の真ん中に置いて、実行していこうとしています。数多く抱えるサブブランドも、このブランドパーパスを起点にサービスやメッセージの発信の仕方を再設計しています。
大橋:私たちも、社名変更の決め手は経営の意思とともに、グループ名とサービス名の認知にズレがあるという調査結果でした。これらを踏まえ、2016年に策定した初めてのグループ中期経営計画で、ブランディングの目的を明文化しました。①顧客の期待/グループビジョンの実現 ②既存事業の成長 ③グループ一体化 ④海外進出 ⑤投資効率の向上、という5つを目的として投資をすることで、ブランディングを推進しています。