2割の熱狂的なファンとの密接な関り
前田:そうした環境下で、コミュニティ活用に取り組まれたキッカケは何だったんでしょうか?
菅:私たちのビジネスは、ビジネスパートナーとはものすごく密接な関係をつくってきたのですが、本来、お客様はその先にいらっしゃいます。そのため私たち自身が「お客様のために」といった感覚がちょっと鈍い面がありました。
ですから、ブランドをより良くしていこうと思ったときに、現場のビジネスパートナーの声はしっかりと捉えるけれども、そちらが優先されがちで、 お客様の声を拾いきれない歴史が長かったんです。そうこうしているうちに、ブランドが伸びなくなってきたんですね。
前田:伸びないというのは、ビジネスパートナーの方がお客様に対して商品を推薦しても、購入されないというようなことでしょうか?
菅:はい。肌分析は無料で提供してきましたので、これを体験される方は増えていったんですが、その後の購入やリピートが伸びなくなってきていました。
私がAPEXブランドを担当することになったのは、そんなタイミングでした。これだけの仕組みを持っているなら、リピート率は高くて当たり前で、ここまで根拠を示しているならばお求め頂きやすいはず。なのに、なぜそこに逆転現象が起こってしまうんだろうと思い、 データを今までと違う見方をし始めました。
前田:今までと違う見方というと、具体的にはどのように?
菅:売上だけではなく、お客様を分解して見てみました。そこで見えてきたのが、当たり前なんですが、 2:8の法則でした。
2割のファンの方には、肌分析の信頼感がすごく高く、お一人お一人に合わせているので商品の使い心地もすごく良い、と支持をして頂いていました。 実際売り上げのほとんどは2割の方が支えてくださっていて、中には初代商品から30年近く使われているという方も多くいらっしゃいました。
前田:それだけ長く使われるということも、化粧品の中では珍しいことではないでしょうか?
菅:そうなんです。それと調査からもう一つ見えてきたのが、お客様と担当しているビジネスパートナーの関係が、すごく深い。売り手と買い手を超えているような関係です。
中には一緒にご旅行に行かれたり、会うたびにお土産を持っていかれたり…、一人の女性と女性のお付き合いをさせていただいている方も多くて。NPS(Net Promoter Score)で商品の推奨度調査をすると、「人の要素でこのブランドを信頼している」という項目がすごく高く出ていました。
ただ今までは、無料の肌分析が新しいお客様に会うときの武器になるものですから、とにかく「肌分析の数を追う」ことを優先しがちでした。でも、その結果、分析結果についてしっかりとした説明を受け、「ああこれは納得だ」「これは欲しい!」と感じていただけるお客様が減ってしまい、「ああ、これはブランド品質 がどんどん下がっていっているな」と。
前田:品質が下がると、どのような購買行動になって現れるのでしょうか?
菅:購入をしてもリピートにつながらないということです。とりあえず1品だけ購入して…という方が増えた。
また、これ以外の要因として、肌分析して結果をお戻しするのに1~2週間かかり、サンプルを使ってから商品をお届けするのにも、また1~2週間かかるため、 その間に購入の気持ちが萎えてしまっているという、APEXのそもそもの提供システムに根本的な課題がありました。
前田:そうした根拠あるデータが取れて、APEXの現状を変えていこう!というプロジェクトが立ち上がっていったんですね。
菅:いいえ、実は根拠あるデータとして示しても、状況はあまり変わりませんでした。というのも、会社全体が、直接お会いすることのないエンドユーザー の方々に対する感度が弱かったということと、ビジネスパートナーの方々が、慣れ親しんだこれまでの仕組みに問題意識を感じにくかったためです。
前田:そうか、そうですよね 。目の前のビジネスパートナーは、ある種熱狂的に自分たちのこのシステムを愛して使ってくれている 。でも、まさかその先のお客様が、不満を抱えているとは思いにくいですよね……。
菅:むしろ、愛していただける方だけを残しているようなところがありました。だからお客様の数が伸びなくなってしまった。そこで、もう1回お客様視点に立ち直るいい方法はないかなと思っていたところで、顧客との共創というコンセプトを取り入れようとなりました。
書籍案内
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