「心理学」が影響を与えた、「合理性」と「クリエイティブ」の分離
前回のコラムの記事について様々なご意見をいただきましたが、「心理学」という言葉に多くの方が反応していることが印象に残りました。現代においては、「心理学」という言葉が広い意味で使われており、正確な定義がないまま使うと誤解を招くという意味で、注意を促すべきだったかもしれないと感じました。
前回のコラムの主旨としては、厳密な心理学の定義を議論したいわけではありませんでした。あくまで言いたかったのは、広告の歴史を振り返った時、1950年代の米国の広告の黄金時代に、心理学を謳ったモチベーションリサーチが隆盛し、60年代になって急速に衰退したという事実があったということにすぎません。
ポール・フェルドウィックの『Humbugの解剖』によれば、その背景にはサブリミナル広告を含むスキャンダルがあり、少なからず心理学という言葉が、広告業界においてはある意味タブーになり、その補完を「クリエイティブ部門」が担う、という形になったという解釈です。
みなさんの意見を見ていると、いまの時代はそのような歴史的背景とはまったく関係なく、広告やマーケティングにおいて精神分析以外にも社会心理学を含む多くの心理学的知見は活かされていると言えます。また最近ではニューロサイエンスのように、脳の神経細胞がどのように情報という刺激について反応しているかを把握することで、マーケティングの施策に活かそうとする動きもあります。
しかし、60年代に起こった「合理的説得によるセールス」と「感情や感覚を扱うクリエイティブ」という慣習的な分離は、いまもまだ強力に機能しています。その意味では、サブリミナル広告のスキャンダルに端を発した出来事は安易に無視できないものだったといえるわけです。