ブランドの未来をプロトタイピングする場

【前回コラム】「新しい世代が恋する未来をデザインするために」はこちら

黎明期を経て、多種多様なポップアップストアが目につくようになりました。それに伴い、ひところのものめずらしさ自体は薄れてきてもいます。いま、ポップアップストアを実施する目的は何で、どのように活用すればいいでしょうか。前回触れた、「新しい世代」「新しいあたり前」を踏まえながら、2016年から足かけ4年、「Lipton Fruits in Tea」を実施し続けて見えてきた活用方法についてご紹介します。

高リスクでもポップアップストアに挑む理由

都会の至るところに現れては消えるポップアップストアは、まるで打ち上げ花火のようです。夏も終わりに近づきましたが、街中ではいまもさまざまな企画が人々を楽しませてくれています。

成功が保証されないリスキーな手法にあえて取り組む宣伝担当者や広告クリエイターには、共感をしながら心の中でエールを送っています。

ポップアップストアは、少し前は目新しい施策だったため、実施するだけで話題になりやすかったと思います。しかし、いまや季節を問わず、さまざまな場所で開催されるようになっており、今後は、さらにクオリティが問われるようになると考えられます。つまり、提供する体験が陳腐だったり、出店場所やターゲットにマッチしていなかったりすると、店頭に人が集まらず、ソーシャルメディアでも話題にならない-など、失敗に終わるリスクが、より高まるということです。

わたしたちは「ブランド」という言葉をよく使いますが、それ自体を直接に認識するのはとても困難です。ポップアップストアは、直には触れられないブランドを具体的に表現した、シンボリックな存在のひとつでもあります。だからこそポップアップストアは、空間設計や、その場で体験できることの企画、商品の見せ方の工夫、店頭スタッフによる接客などのオペレーション方法など、広い領域をカバーしなくてはなりません。従来の広告手法では考えられないほどの緻密さも求められます。

他方、“ストア”というくらいですから、「店舗」としての性質も持ちます。店を出したからといって、必ず人が来るとは限りませんし、天候にも左右されます。あるいは近隣で何か事件が起きることだってあるかもしれません。つまり、ポップアップストアには、コントロール不可能な領域も多いのです。

いくつものポップアップストアを手がけた身からすると、実のところ、「マス広告のほうがよっぽど安全で、効果の見通しが立つ手法だなぁ」などと思ったりもします。

しかし、それでもポップアップストアに挑戦するのは、なぜでしょうか。それは人々とブランドの関係を根底から変化させ、もともとの事業を広げられる可能性があると考えているからです。それは、従来の広告手法では、なかなかなしえません。

かつてはポップアップストアの実施自体が目を引いたので、文字通りの打ち上げ花火のような一過性の施策でも、人々の関心を引くには十分でした。しかし昨今は、ポップアップストア自体のものめずらしさが薄れ、クオリティの重要性がますます高まっています。高クオリティの企画を数多く実施していくのは難しいですし、なによりもったいない。つまり、ブランドの新しい価値づくりや事業性など少し遠くを見据えた体験価値づくりに挑戦するべきなのです。

そうした意味でも、ポップアップストアで「人々とブランドの関係を変える」のは、重要な着眼点なのです。では、具体的にはどういうことなのか。それが、もともとの事業にどんな貢献をするのか。ご説明していきたいと思います。

きちんと目的と戦略を設定し、適切な体験のデザインと情報のデザインをすれば、ブランディングとマーケティングの歯車を回す効果が期待できます。

次ページ 「実験場として活用する基本ロジック」へ続く

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藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)
藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

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