プロモーションの領域を再定義し、「新しい価値」を提供するために — 『プロモーショナル・マーケティング ベーシック』(前編)はこちら
―前回の記事ではAIDMAやAISASなどのモデルだけでは、なかなか適応できないのが現代のプロモーションだと伺いました。それは具体的にどういった状況なのでしょうか。
宮久:そもそもの話になりますが、まずAIDMAが生まれたのは1920年代のアメリカです。1920年って、100年ちかくも前で、戦前なんですよ。さすがはマーケティング発祥の国だけあって、アメリカの提唱したこのモデルが、消費者の購買行動の原型として戦中、戦後と受け継がれてきたのです。
ところがインターネットが世の中に普及し、それが消費者の購買行動に影響を与え始めた2004年に電通さんが新しく提唱した購買行動モデルがAISASです。それまでのAIDMAと大きく違う点として、SearchとShareの2つのSが入っています。これが当時としては画期的な視点でした。興味を持ったらインターネットで検索する。購買した後にも評判とか感想をネットで共有するのが、現代の消費者なのだと。
ただ、AIDMAもAISASも、左から右の時系列モデルであることに注目してください。まずアテンションがあってインタレストがあって、興味を持った後にサーチして、購買のアクションを起こした後にシェアをする。つまり左から右に、順番にステップを踏んで行動が進んでいくというモデルです。
―つまり、それぞれの行動の順番が入れ替わったり、逆行したりすることはない訳ですね。
宮久:そうです。しかし、その状況を一気に変えたのが、2008年のiPhoneの日本上陸に始まるスマートフォンの普及です。
何が起きたかというと、検索や共有を行うのが家のパソコンだけじゃなくなったんです。インターネットがモバイル環境になって、あらゆる時点や場所で、インターネットを用いて検索したりシェアしたりすることができるようになった。
その結果、検索(search)・共有(share)・拡散(spread)という3つの「s」がどの時点でも起きるようになりました。そのことをモデル化したのが「RsEsPs(レップス)モデル」です。
―つまり、「RsEsPs(レップス)モデル」のsは時系列的に流れていくものではなくて…
保田:「RsEsPs(レップス)モデル」では認識、体験、購買のあらゆるフェーズで、3つのs(検索・共有・拡散)が起こることを想定しています。スマホが普及して、生活者の購買行動が一番変わったのがそこです。
AISASの場合は、「興味・関心」の後に「検索」し、「購買」の後に「共有」する、というように役割と順番が固定されていました。なおかつ「拡散」という現象も当時はそれほど一般的ではありませんでした。でも実際には認識、体験、購買のそれぞれのフェーズで、それぞれ違う態度のs(検索・共有・拡散)が発生していると思うんです。そうすると、新しくプランニングするときも、そのことを前提として捉えなきゃいけないっていうのがベースになってきます。
宮久:「RsEsPs(レップス)モデル」のポイントは、3つのsがいずれも双方向になってることです。要するに時系列で左から右に進むのではなくて、行ったり来たりするということです。でも、皆さんの実際の購買行動って、今はこうじゃありませんか?
―確かに、自分の行動を考えてみると、きちんと順番通り検索して、共有して、拡散してというより、SNSで最初に見た瞬間に拡散するなんてことも当たり前になっていますね。
保田:店頭に行って、その場では買わずに検索して、またしばらくしてから購買…ということもありますし、現代の消費者の購買行動は非線形的です。
同じ共有でも、例えば、認識してからすぐの共有と、ポップアップストア等で体験してからの共有では、動機や共感度合いが全く違います。そこを上手く捉えないとプランナーとしては目的に適したプランニングができないという事だと思います。
また、プランニングに関して言うと、やはり購買のためだけの施策では、なかなか商品が売れないという大きな市場の状況もあります。逆に言うと、ブランドへの共感や理解も含めて、プロモーション・プランニングが始まっている、と言えます。例えば、ソーシャルメディアで個客との絆づくりをしたり、ポップアップストアで体験価値を提供したりというのは、その一例です。