日本各地の伝統工芸・地場産業の活性化にも尽力する喜多教授が企画した展覧会「未来につながる伝統工芸とデザイン」が開催される。
未来へつながる伝統工芸とデザイン
国内外のメーカーの家具、家電、ロボット、家庭日用品などのデザインを手がける一方、日本各地の伝統工芸・地場産業の活性化、およびクリエイティブ・プロデューサーとしても活躍している喜多俊之教授が企画した「未来につながる伝統工芸とデザイン」が、9月21日から大阪・あべのハルカス「スカイキャンパス」で始まる。
「デザインを語るとき、最近でいえばITなど未来志向になりがち。でも、日本のモノづくりには、例えば伝統工芸のように素晴らしい歴史を持つものがあります。特に私たちの暮らしや環境に関わるデザインを語る場合には、未来だけではなく、現在と過去の視点や切り口も重要です。そこで、今回の展覧会では、過去・現在・未来という3つの視点からデザインを見ていただきたいと考えています」と、喜多教授は企画の意図を話す。
本展では、喜多教授が現在まで40年以上にわたり、さまざまな伝統工芸の産地の技術や素材を使ってつくりあげた漆、錫、竹などのプロダクトのほか、大阪芸術大学工芸学科ガラス工芸コースの教授らの作品も展示する。また、1987年にパリのポンピドゥー・センター10周年記念招待作品として出品した、喜多教授の代表作である二畳の茶室「二畳結界」など、多様な作品が展示される。
タイトルに「伝統工芸」とあるが、本展ではいわゆる「伝統工芸品」ではなく、それらをデザインの視点からも昇華させたプロダクトが並ぶ。
「匠の技とデザインのコラボは、形や色だけでできているわけではありません。機能性、安全性、さらには使う人への思いやりなど、さまざまな要素から成り立っています。近年、伝統工芸ではこうした視点がより求められるようになってきています。そこで本展では、タイトルにあえて“デザイン”という言葉を加えているんです」。
伝統工芸の多くは、日本における時代や季節のしきたりなど、暮らしの中から生まれてきた。いわば「暮らしの文化」だ。しかし、生活の環境が大きく変わった現在、これまで通りの流通は縮少して、伝統工芸の産地は市場を失い、作り手は閉塞状態にあるという。喜多教授はこうした現状に警鐘を鳴らし、「どんなに時代が変わろうと、作り手がものに込める魂や使う人に対する思いやりは変わらない。それをきちんと伝えていかなくてはいけない」と、いまの暮らし、ひいては未来の暮らしの中で役立つ伝統工芸のかたちを提案している。
和紙をランプシェードに使ったLED照明、岐阜県の高山地域で300年程前から造られている春慶塗を使った漆器、フランスのマリアージュ・フレール社より発売された錫の茶器のほか、時には刺繍機を開発するなど、伝統工芸を活用する機会をつくることで、その価値を高めている。
「私たちの日常の暮らしと産業経済、そして原材料の産地となる自然の問題は常にリンクさせながら考えていかなくてはいけない。この展覧会が今を生きる私たちが伝統工芸を過去のものにするのではなく、未来へつながるものとして捉え、考えるきっかけになればと思っています」。
大阪芸術大学 藝術研究所 所長
喜多俊之さん
編集協力/大阪芸術大学