APEXはなぜ熱狂的な顧客を獲得できたのか?POLAが実践するコミュニティマーケティングとは【後編】

会社全体がコーポレートブランディングについて取り組み始めた

菅:そうした状況が1~2年続いているうちに、状況の変化があったんですね。POLAのコーポレートブランドを調査したときに、「(POLAというブランドを)好きでも嫌いでもない」という評価が高かったことから、会社がコーポレートブランディングについて取り組み始めたんですね。

そのあたりから会社全体がお客様の声をもっと聞こうとか、これまで常識だと思っていたことを非常識だと思うようになろう、という風に変わってきて、それでやっとAPEXで起こしたい変化に耳を傾けてもらえる場面が増えてきました。

前田:そうすると、APEXというブランドの社内意識を変えるべきだったという風に表現できると思います。このプロジェクトは多くの複数の部署を横断しているので、部署ごとの意見や要望の調整も大変ではないかと思いますが、どのように達成したのでしょうか。

菅:やはりきっかけはお客様と直接出会うAPEXラウンジと、そこで私自身が軸をもてたことでした。ラウンジのイベントに、最初は窓口になったマーケティング部門のメンバーしか参加しなかったんですが、遠巻きにしか見ていなかった営業部門やインフラ部門のメンバー、プログラム設計のベテランメンバーたちをどんどん巻き込むようになっていきました。

前田:普段エンドユーザーと直接関わらないような方もAPEXラウンジに放り込んでみて、どんなことが起きたんでしょうか?

菅:すごく印象に残っているのが、プログラムを作っているメンバーが、肌分析の正しい情報を出すために、これまでは「分析のための肌画像データを送信するのに10分かかるんですけどいいですか?」って言っていたんですが、実際にAPEXラウンジで「時間がかかるのは困る」という意見を目の当たりにすると、「3分でやりましょう!」と言ってくれるようになったんです(笑)

前田:今までは自分の部署、自分の職務上の責任を守るために10分欲しいといっていたのが、3分でやると!

菅:自分がお客様の目の前にさらされるという経験がないスタッフも多かったので、そこも一緒に経験して、「あのとき、あんな思いをして嫌だったよね」とか、「そうさせないためには、やっぱりここは譲っちゃいけないよね」といった会話が色々なところで生まれてきました。そうしたなかで、「APEXの最終形はこうしたほうがいいかも」というイメージが、最初はてんでバラバラだったのがザクっと一つの方向にまとまってきました。

前田:「店頭での体験スピードを向上させる」というのは非常に重要な「中間目的」である一方で、「お客さとビジネスパートナーの関係性は維持する」という「中間目的」もある。選択肢としては、分析に10分かかるなら、その間にビジネスパートナーとお客様に会話をするなどしてコミュニケーションとってもらう、といった施策も取り得たと思います。

その時に、スピード向上を目指す姿勢を貫いて、周囲をそれに巻き込んでいかれたのが凄いと思います。この「分析をリアルタイム化すべき」という中間目的を実現するうえで、具体的にどんな施策・活動を行われたんでしょうか?

菅:もともと肌表面から情報を取るためには、マイクロスコープのようなものを使います。それは私たちも用いていますが、さらにipadタブレットとカメラで顔を動かしながら分析をするという世の中にないシステムを導入しました。これによって、今まで分析とサンプル提供までトータルで2~3週間必要だったのが、3分で分析して、最短4日で商品が届けられるようになりました。これでやっと世間並みになれたかなと思っています。

前田:世間並みなんですか?

菅:即時分析というのはどこもやられています。ただ、私たちほど広範囲に、且つ緻密にやっているところは他にありません。私たちは、肌表面から170万の情報を引き出します。この数と精度が他社との差別性になります。肌表面から得られるミクロレベルのパターンを読み解くと、肌の奥のことを精緻に推測できます。その技術開発が得意分野なので、そこにはこだわりました。他社がスマホカメラで簡単に早く肌分析を行っていくなら、私たちはリアルでしかできないことをとことん突き詰めよう、と。

前田:そこにタブレットでの動画撮影システムが登場するわけですね。

菅:個人差はありますが、肌表面から、皮下組織や顔を動かす)表情筋まで3~5mmくらいの厚さがあるんですが、マイクロスコープのカメラはその上部光までしか光が入りません。ですから、奥に行けば奥に行くほど、カメラでは情報を取れません。そこで私たちは、肌表面の動きは肌内部は密接に関わっているという自社の知見を活かして表情を動かすことで、肌の奥の情報を取れるだろうと考えました。

ここでも最初は動画分析を行って結果が戻ってくるまで数十分かかるという研究所を説得して、3分で分析することを実現しました。あと、肌分析のために「あうあういういう」という口の動きを行うのですが、指3本くらい口を開ける必要があります。でも、そんなことをお客様にはさせられないじゃないかと、関係者内でやりあったこともありました。

前田:精度の高い肌情報を取得するためには口を大きく開けてもらわないといけないという担当者の想いと、エンドユーザーに担当者からすればそんなことはさせられないという想いとがぶつかり合うわけですよね。

菅:これが今までの私自身だったら、たぶん「技術がそうなら仕方がない」と折れていたと思います。でもここで折れたら、APEXラウンジに来ているあの方たちが…という顔が浮かんじゃう。あの方々が、時間がかかりすぎてげんなりする表情をするかも、っていうのが浮かんできちゃって。それはやめよう、と。ここで負けちゃいけない、と。

次ページ 「ユーザーの声が社内に浸透し始めた」へ続く

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