「性悪」になってコピーを書こう――河西智彦

【前回】「宣伝会議賞は、『賞』ではありません。――勝浦雅彦」はこちら

第57回「宣伝会議賞」、ついに始まりました!
第57回「宣伝会議賞」の審査員の方のコラムをリレー形式で掲載しています。
第2回は河西智彦さんです。

河西智彦氏
博報堂
クリエイティブディレクター・コピーライター・CMプランナー

売上を増やす心理や感情をつくる統合コミュニケーションをおこなう。
主な仕事に、幸楽苑年間CP、幸楽苑「2億円事件。」、スペースワールド「なくなるヨ!全員集合」「またいつか、別の星で会いましょう。」、森永製菓ベイク「買わない理由100円で買取りますCP」、岩手日報「最後だとわかっていたなら」、その他クルマ、不動産、通信、お菓子、アパレルなど。カンヌ金賞、ACC金賞、電通賞、TCC審査委員長賞、JPMアワードグランプリ、グッドデザイン賞、大阪/名古屋/福岡コピーライターズクラブグランプリなど。著書「逆境をアイデアに変える企画術」。

 

量を増やす方法、脳を強制的に回転させる方法、宣伝会議賞だけに通用する対策、などいろいろ話したいことはあるのですが、すでに大先輩たちがいろいろな技術を教えてくれているので僕は違った角度からにしようと思います。

発想を伸ばす重要な意識のひとつ「性悪になる」です。つまり書くときの性格を悪くすることです。

毎年、宣伝会議賞の審査をしていると、多くのコピーが『性善説』で書かれています。つまり「この商品はこんなに素晴らしいんですよ!」「この商品はあなたを絶対に救います!」というやつですね。もちろん生きていく上で性善説は重要です。でも、本当にその商品やサービスを良いと思って書いていますか?

例えば、レンタルサイクルは手放しでほめまくるサービスでしょうか?
本当に口笛を吹きたくなりますかね?

性善説で考えると「本当かな?」「本当にこの人そう思っているのかな?」というコピーが生まれやすいのです。でも、性格を悪くすれば「レンタルサイクルってそんなに使わないよな……」となったりします。でも、性格が悪いまま考えているうちに「基本は乗らないけど、電車が止まったときの最終手段としてはまだあるかもな……」と、これなら自分も乗るかも、というポイントを発見できて、それが切り口になったりします。

ちなみに、性悪で書いたコピーのほうが効果をだしやすく、結果、クライアントに喜んでもらえたりします。クライアントは手放しで自社商品を褒めてもらいたいわけではなく、売れるにはどうすればよいのか、使ってもらうにはどんな打ち出しかたが良いのか、を知りたがっています。性格が悪いのは、広告においては決して悪いことではないのです。

性悪で考えるメリットは他にもあります。それは、ほとんどの応募者が性善説で書くということ(特に女性はその傾向が強いです)。性善説コピーでは辿りつけない場所へ行けるのが性悪コピー。誰もいない場所に辿りついたコピーが広告賞でも現業でも強いのは、歴史が証明しています。試しに、過去の宣伝会議の受賞作を性善・性悪で分析してみてください。発想のスタンスが性悪な受賞作が多いはずです。

ということで、どうか、書くときに自分の性格をわざと悪くしてみてください。商品やサービスを疑ってみてください。斜めに見てください。生活者として感じたことに素直にしたがってみてください。普段性悪なのに、コピーを書くときに性善説になってしまう人は、地の性格をだしてください。

意識ひとつで、発想力は変わります。

ちなみに、僕は生まれついての性善説なので、コピーを書くときだけ無理やり性悪になっています。だから疲れるんです。禍々しいものが身体を浸食してしまうのが嫌で苦しくて8時間ぐらいしか寝られません。そう、人間に悪意なんてない。アイドルはおならをしない。地球はなんて美しい。最後に愛は勝つ。

では失礼します。

現在、第57回「宣伝会議賞」特設サイトを開設しており、11月6日まで応募を受け付けています。第57回「宣伝会議賞」の応募要項、課題一覧を掲載した月刊『宣伝会議』10月号は、現在絶賛発売中です。月刊『宣伝会議』11月号(10月1日発売)では、課題のオリエンを掲載いたします。

第57回「宣伝会議賞」審査員
第57回「宣伝会議賞」審査員
第57回「宣伝会議賞」審査員
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